言葉が違うものは、内容も違う。反対に、内容が違うからこそ、それを表す言葉を変えていると言っていい。そう、KAM(カム)とCAM(キャム)も。
これから、これまで定型文であった監査報告書に、監査人がフリーハンドで監査に固有の情報を記載することになります。イギリスをはじめとして国際監査基準に従っている国や地域では、KAM(Key Audit Matters)と言います。日本では、「監査上の主要な検討事項」と名付けられていますね。
一方、アメリカでも、定型文であった監査報告書に、監査人による非定型の文章が記載されるようになります。その名も、CAM(Critical Audit Matters)。これ、実はKAMと完全一致するものではないんです。
おいおい、昨日のブログ「アメリカのCAMがイギリスのKAMと違うところ」で、CAMとKAMが示す内容が基本的には同じだから、同じ名前にしてほしいと話したばかりだろ、って。はい、確かに、そう話しましたね。
でも、気をつけたいのが、「基本的に同じ」というところ。いや、正確には、そう話しておいて良かった、という冷や汗モノでした。
実は、アメリカで、これらは違うと説明した文書がリリースされています。それは、PCAOB(公開会社会計監視委員会)による2019年7月の文書。”AUDIT COMMITTEE RESOURCE : Critical Audit Matters”と” INVESTOR RESOURCE : Critical Audit Matters”の2つ。
そのどちらにも、CAMとKAMの違いに関するFAQが掲載されています。その中で、CAMとKAMは、基本的な要件が異なるとハッキリと伝えています。その違いは、何にフォーカスするか。
KAMが監査の実施過程において最も重要な事項にフォーカスします。一方、CAMは、財務諸表で重要な勘定や開示に関連する、特に困難な、主観的な又は複雑な監査人の判断を含む事項にフォーカスします。こう説明されているのです。
確かに、KAMは監査のプロセスを記載することが明確に謳われています。たまに、リスクを書くものだと勘違いしている人もいますが、監査プロセスを書くと監査基準に明確に示されています。
しかし、アメリカのCAMは、監査のプロセスではなく、監査人の判断を扱うといいます。監査の資源を多く投入したものはKAMになることはあっても、そこに監査人の特段の判断を要しないのならCAMにはならない。
これって、CAMのほうがKAMよりも小さな概念のように移ります。そう考えると、アメリカの2019年6月決算会社のCAMの平均個数がKAMよりも少なかったのも納得が行きます。
実際、イギリスのKAM事例を見ていると、某アカウンティング・ファームは、どのチームも”Low risk, High value”との理由によるKAMを記載しています。最初に見たときには「なんじゃ、こりゃ」と感じたものですが、監査のプロセスを記載する趣旨には適っています。
ところが、このタイプのKAMは、アメリカの監査ではCAMにはなりえないのでしょうね。特に困難な、主観的な又は複雑な監査人の判断にフォーカスするのがCAMですから。
果たして、こんな違いを、財務諸表の利用者は区別して読み解くことができるのでしょうか。単純にイギリスや日本のKAMと、アメリカのCAMとを比較して、「こっちは数が多い」「あっちは判断を含まないものまで挙げている」と混乱しそうな気もします。
もちろん、用語が違うのだから、別のものを監査報告書に記載しているのは間違いない。しかし、その違いがあまりにもわかりにくい。監査を理解してもらうためにKAMやCAMを導入しているのに、これじゃ、かえって理解を阻害する面もあるのでは。
将来的には、どちらかに収斂していく可能性も考えられます。現時点でKAMは数が多いとの批判があるため、CAMの方向に向いていくのかも。まあ、こんな違いは、それぞれが置かれた環境が原因と考えられるため、そもそも統一することが無理なのかも。
いずれにせよ、KAMとCAMの行方に目が離せませんよ。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。