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伝説の受付女性による、おもてなし

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

新大阪駅から東京駅に向かう新幹線の中。スマートEXで自身で座席指定したのは、進行方向に向かって右側の席。これ、接待なら、アウトな選択です。

 その昔、出張のときに、クライアントに新幹線の座席を事前に取っていただいたことがありました。まだ、世間を知らなかったボクは、何も気にすることなく、新幹線の席に座っていたところ、先輩が話しかけてきました。

「竹村くん、この座席の意味、わかる?」

 そう聞かれても当時は、何のことだか、さっぱり分からない。指定席か自由席かの違いくらいしか思いつかない。すると、その先輩は、こう話し続けたのです。

「これね、富士山が見える方の座席をわざわざ取ってもらっているんだ。これがクライアントの気遣いであり、おもてなしなんだ。そういうところに気付けるようになろうね」

 東海道新幹線は富士山の南を走っている。すると、東京から大阪方面に向かうときには、進行方向の右手側に、また、大阪から東京方面に向かうときには左側に、富士山が位置することになる。

 だから、富士山が見える座席を意図して用意することで、その道中を少しでも楽しませたいというクライアントの配慮がそこにある。座席に意味があるのです。

 そこまでしてもらっているのに、窓のブラインドを下げて寝ているなんて有り得ない。せめて富士山が見えるところでは、窓にかぶりついていないと。おもてなしに応えるのが、気持ちのキャッチボール。

 ただ、こうしたおもてなしは、最近ではめっきりと少なくなっている印象ではあります。かつては普通に行われていたもの。経理部の方だったり、経理部からチケット手配を依頼された総務部の方だったりと、気遣いの作法が脈々と受け継がれていました。

 そんなおもてなしの連鎖が途絶えているとしたら、少し寂しい気もします。せっかく、あのレベルまで築き上げた伝統がなくなってしまったかと思うと、もったいない。

 もっとも、マニュアル的に対処することもできるのかもしれません。新幹線の座席を取るときには、どちら側にするとかね。でも、感情的には、それも味気ない。想いがあってこその、おもてなし。

 また、そんなマニュアルがあっても、誰もがその通りにできる訳でもない。誰もができない逸話として、別のクライアントでボクが「伝説の受付女性」と名付けていた方がいらっしゃいます。

 仕事でそのクライアントに頻繁に訪れていたので、ボクの顔を覚えてもらっていました。受付票を書かなくても、「こちらをどうぞ」と用意していた入館証をさっと差し出してくれていたのです。これだけでもすごいと思っていたところ、次のような出来事があったのです、

 ある日、クライアントの会社に入ると、伝説の受付女性は電話対応していました。そこで、隣にいた別の受付の女性に、アポイントがある旨を伝えます。

 隣の女性は受付に入って間もなかったためは、ボクのことを認知していない。なので、手順どおり「では、こちらに記入してください」と所定の用紙を渡そうとします。ボクも、書き込もうと用紙を受け取ろうした、そのとき。

 伝説の受付女性は、右手で受話器を持ちながらも、左手でボク用の入館証を隣の女性にパッと差し出したのです。まるで、「このお客さんには記入させるんじゃない」「すでに用意しているこの入館証を渡すんだ」と言わんばかりに。

 まさに、ボクが「伝説の受付女性」と心の中で名付けた瞬間でした。状況に応じて、最適の対応を行う。しかも、マルチタスク。マニュアルに従っているだけでは、こんな芸当は到底、ムリ。

 彼女の給料を倍にしても良いと感じましたよ。そんな権限はまったくないけど。でも、経理や役員の方には、彼女の振舞いに感動したことはしっかり伝えましたよ。

 その後、結婚退職されたと聞きました。もう随分と経っていますが、あの気遣いはどんな職場にいても、どんな職種に就いても、周りの人をハッピーにできます。そこでは、変わらずに欠かせない存在となっていることでしょう。

 現に、あれから時間が経った今でも、こうして新幹線の中で、ボクは満たされた感覚を味うことができます。時空を超えて、誰かの気持ちに良い影響を与えられる仕事って、純粋にすごい。

 これで、富士山が見える座席を指定していれば、ハッピーの二乗でしたね。今度は、自分自身を接待してみよう、っと。

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