内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXは、3月末決算会社だと2009年3月期から適用されています。なので、直近の2019年3月期で、もう10度目の開示と監査になりました。
この制度への対応をとってみても、企業の姿勢というものがよく分かります。周りの会計士や企業の方々に話を聞くと、次の2つの姿勢がある。
1つは、制度対応として必要最低限のことを、できるだけコストをかけずに済ませてしまおうという消極的な姿勢。形式的に対応を終わらせようとするため、やっている人たちにとっては負担感しかない。
もう1つは、制度対応にとどまらず、内部統制という切り口から自社の統制やガバナンスの向上に活用していく積極的な姿勢。実質的に、全社的なリスクマネジメントとして機能するように、常にやり方を見直し、工夫も加えていきます。
面白いのは、このうち、J-SOXにブーブー文句を言っているのは、消極的な姿勢のほう。企業の方々に限らず、会計士でも同じ。ただ単に承認のハンコの有無しか見ないなら、面白くないのは当たり前。
こんな違いが生まれる背景には、制度にあるのではなく、それに向き合う企業や会計士のマインドにあります。以前のブログ「やりがいのある仕事を求めるのは「不自由」」でもお話ししたように、やりがいを誰かに用意してもらうのではなく、やりがいを自ら持つ。
これに照らせば、内部統制の維持・向上のために、成果が出る制度を求めるのではなく、成果が出るように取り組めば良い。効果的な何かを待っているから、そうじゃない結果が出ると、ブーブー文句を言うことになる。しかし、自ら効果が得られるように創意工夫するなら、そんなことを言っている暇がない。
ただ、制度として運用していくなら、できるだけ上手く回ったほうが社会的なコストを減らせます。そんな観点からは、内部統制報告制度をアップデートしていく必要があります。そう、「J-SOX 2.0」です。
では、どうすればよいか。そこで考えてみましたよ。自ら内部統制の構築・運用に取り組むような新しい制度を。
KAMを利用してはいかがでしょうか。そう、監査上の主要な検討事項を利用するのです。
KAMとして決定する事項は、経営者や監査役等と協議を行うことが前提とされています。その協議によってガバナンスの向上につながると期待されているからです。
この協議によって、経営者も財務報告にあたってのリスクを共有しているハズ。リスクを共有したなら、「後は知らない」なんて態度はとれません。会計士さん、頑張ってね、という態度は許されない。
リスクを共有したのだったら、そのリスクに対応すべき。会計士はKAMに対応していくのに対して、経営者もKAMとされた事項に対応するのが自然な流れ。
例えば、のれんの減損がKAMになったのなら、会計士だけリスク対応するのではありません。経営者も、のれんの減損が適切に判定されるような体制を築き、運用させていかなければならない。それが業務執行としての務め。
KAMとして選ばれるほどにエラーが生じそうな事項を承知しておきながら、それを放置することは許されないでしょう。だから、多くの場合、経営者もKAMとされた事項に適切に対応していくハズ。
ならば、その対応について、内部統制報告書に記載するのです。すると、今のようなボイラープレートとなった内部統制報告書の記載内容にも、企業の固有の情報が記述されるため、積極的な姿勢の会社なのか、あるいは、消極的な姿勢の会社なのかが、今以上に外部から理解しやすくなります。
規定演技として売上計上プロセスは残しておく一方で、自由演技としてKAMへの経営者の対応を記載するのです。ここに、監査役等の対応も併記されるなら、もう最強。
内部統制報告制度が導入されて、もう10年。当初の教育啓蒙的な目的は十分に達成できているため、1.0としての役割を終えたと考えても良いでしょう。そこで、より実効性が高く、そのレポーティングにも企業の固有の情報が記載されるような「J-SOX 2.0」へとアップデートするのです。
結構、いい案だと思うのですが、いかがでしょうか。積極的な姿勢の方々のコメントをお待ちしております。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。