オスマン帝国が強かった理由。ボクは、ホイチョイ・プロダクションズさんがテレビ雑誌『TeLePAL (テレパル)』に掲載していたコラムを熟読していたから、その理由を知っています。その答えは、イェニチェリ。
オスマン帝国には、軍事力がありました。それを支えていたのが、この「イェニチェリ」だというのです。イェニチェリとは、最前列で戦う兵士の後ろに位置している部隊。
最前列の兵士の使命は前進していくこと。しかし、兵士が戦わずに、あるいは、戦って負けそうだと思って逃げ帰えることがあります。すると、オスマン帝国の軍隊は前に進めなくなります。
そこで登場するのが、イェニチェリ。最前列の兵士が戦わずに逃げ帰ってくると、イェニチェリがその兵士を切り倒すために構えているのです。だから、最前列の兵士は否が応でも前進しなければならない。このように恐怖という力ずくで強さを保っていたのが、オスマン帝国なんです。
そんなことを思い出させたのが、先日、読んでいた本。オスマン帝国とはまったく関係のない本であったのですが、そこで紹介されていた話が、イェニチェリのような別の話を想起させたから。
読んでいたのは、経営コンサルタントであるジェームス・スキナー氏による『史上最強のCEO』(フローラル出版)。企業を激変させる4つの原則を説明したものです。
この中で、従来の組織図を逆さまにする話が紹介されます。よくある組織図とは、顧客を真上に置いたときに、その下にある企業の組織をピラミッド型で表されたもの。ピラミッドの頂上がCEO、その下が取締役会や事業部長などが来て、最下層が従業員という図。あなたの組織もこれと同じか、ほぼ同じかもしれません。
これでは現場、すなわち、顧客と対面している従業員が、上司の目を意識して仕事することになると言います。お客さんを見ずに、上司を見て業務にあたると指摘します。これでは、誰も顧客を見なくなる。
そこで、ジェームス・スキナー氏は、このピラミッドを逆さまにすることを提案します。逆さまのピラミッドの頂上を従業員とし、また、最下層をCEOするのです。こうすることで、誰もが顧客を向いた仕事ができるようになると主張します。
この話を聞いて思い出したのが、これを監査業界にあてはめて説明した人のこと。今の監査現場は、ピラミッド型の最下層にいる現場の会計士が、監査を受ける企業ではなく、上司やサイナーを見て仕事をする。加えて、監査法人内では品質管理室であったり、監査法人外では会計士協会の品質管理レビューや金融庁の検査であったりと、内部やその関連の組織に目が向いていると分析します。だから、現場の会計士は、監査を受ける企業に目を向けろと、ごもっともな主張を展開します。
この主張、監査サービスを受ける方に目が向いているのは、ジェームス・スキナー氏の逆さまのピラミッドと同じです。そのベクトルの方向性は大賛成。しかし、ひとつ、大きな問題があります。その問題を解決しない限り、ピラミッドを逆さまにしても何の意味がない状況があるのです。
それは、ベクトルの内容。監査業界の逆さピラミッドにおけるベクトルの内容とは、一言でいうと、「監視」。現場に何層にもわたって向けられているのは、監視です。ちゃんとやっているかどうかのチェックが幾重にも行われています。
しかし、ジェームス・スキナー氏が説くベクトルの内容は、監視やチェックとは違います。そこでのベクトルの内容とは、現場がいかに働きやすくなるようなサポートを行うもの。支援の環境を提供するベクトルです。
このように、業務にアクセルを踏むようなサポートが大事。これに対して、業務にブレーキをかけるようなものでは、恐怖で何とかしようとするイェニチェリと同じ。人の気持ちをまったく考えていない。その瞬間は何とかなっても、持続可能性には疑問が残ります。
いくらベクトルの方向性は合ってもいても、肝心のベクトルの内容が違っていてはダメ。ピラミッド型を逆さまにしたところで、ただ単に視点を変えただけのお遊びに過ぎない。遊びで終わるのではなく、それが実践されるために何をするかを説くことのほうが、実務の立場からは何百万倍も大事。
単なる仕組みだけはなく、人の気持ちにまで寄り添えるかどうかで、リーダーシップの有無が決まってきます。内容を伴わない主張もどきを無批判に受け入れていては、今以上に現場が精神的にも疲弊する結果、悪循環を起こすだけ。
そんな不勉強な、無責任な言葉に惑わされないためには、ひとりひとりが学び続けていく必要があります。この年末年始は、この本を読んで、原則について考えてみてはいかがでしょうか。