Accounting

【寄稿】企業会計「会計方針開示の歴史から見つめ直す財務報告」

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

この世で、最も水の存在に気づきにくい生き物とは。答えは、魚。常に水の中にいると、水がない状態を知る機会がない。魚にとって水はあまりにも当たり前の存在であるために、それがあることすら気づかないのです。

 会計に携わる人たちにとっても、魚にとって水のような存在があります。それがそのようにして在ることが当たり前になりすぎてしまっているために、ない状態を想像できない。特に今のような形として在ることしら知らない人たちにとっては。

 それは、会計方針の注記。会計方針とは、経営者が財務諸表を作成するにあたって採用した会計処理の原則および手続のこと。これを一覧で注記することが求められています。このような形で注記を求めるまでに、どのような歴史があったのかをご存知でしょうか。

 会計方針の開示をめぐる議論を理解していると、ASBJサンから確定版のリリースが予定されている、会計方針の開示に関する新基準の趣旨を的確に踏まえた対応が行えるようになれます。そう、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」への対応です。

 この新基準に対応できるよう、2020年2月4日発売の会計専門誌「Accounting(企業会計) 2020年3月号」(中央経済社)に解説記事を寄稿しました。この専門誌には、「解題深書」というコラムが設けられています。これは、ある会計に関するテーマについて,読むべき文献を体系的に紹介していくコーナーです。

 ボクが寄稿したのは、「会計方針開示の歴史から見つめ直す財務報告」。会計方針に関する文献を紹介しながら、財務報告のあり方を見つめ直していく内容です。その構成は、次のとおり。

===
1.はじめに
2.会計方針の一覧注記が求められた理由
3.開示項目は4つか、7つか
4.会計方針の統一か、注記の充実か
5.代替的な会計方針がない場合の取扱い
6.見積りの塊となった財務諸表への対応
7.おわりに
===

 この構成をみても、意外に論点が多いことがわかるのではないでしょうか。これらの内容について、簡単に紹介していきます。

 最初の「2.会計方針の一覧注記が求められた理由」では、会計方針が一覧注記されるようになった背景を紹介しています。そもそも会計方針とは一覧で注記されていなかったところ、ある動きをきっかけとして今の形に切り替わります。あの組織が立ち上がって最初に求めた内容が、会計方針の一覧注記であったことを知る人は少ないかもしれません。

 一覧注記といえば、会計上の見積りの開示でも同じことが提案されています。企業会計基準公開草案第69号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」と同日に、企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」がリリースされました。この公開草案に寄せられたコメントには、一覧注記への反対の声もあったため、どのような着地となるかに関心が高まります。

 こうして一覧注記すべき理由を理解した次に、「3.開示項目は4つか、7つか」では、会計方針として記載する範囲が論点になります。日本で会計方針の一覧注記を制度導入するにあたって、開示する範囲、つまりは、何を会計方針として注記するかが議論されました。

 今回の「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の公開草案では、企業会計原則注解(注1-2)を受けて、7つの例示を引き継ぎました。ここに至った経緯を理解することができます。

 続く「4.会計方針の統一か、注記の充実か」では、経営者が会計方針を恣意的に選択したときに株式市場でどのような評価がされたかを分析した文献を紹介しています。そこでの結論が、会計方針を統一するか、あるいは、複数の会計方針が認められているときに財務諸表を読み替えられるような注記を充実するか。

 その文献が発刊された後、会計の世界では会計方針が統一されていく方向で動いていきます。そこで「5.代替的な会計方針がない場合の取扱い」では、複数の会計方針が認められていない場合に、会計方針の開示が必要かどうかの議論を紹介しています。

 もし、会計基準で1つの会計方針しか認めていないから開示は不要だと考えるなら、会計方針の開示について何も理解できていないかもしれません。会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」でも、それを裏付けるような取扱いが示されています。

 会計方針の統一が進んできた中で注記の充実は不要かどうかについて、最後の「6.見積りの塊となった財務諸表への対応」では、情報の質について論じた文献から興味深い記述を紹介しています。その記述は、まず有価証券報告書の記述情報の充実が財務諸表外で求められ、次に会計上の見積りに関する開示が財務諸表の注記として求められようとしている動きについて予言したものとなっていることに驚くでしょう。

 こうして会計方針の開示をめぐる歴史から、魚が水の存在に気づくように、会計方針の開示のあり方に気づくでしょう。また、そこから財務報告としてのあり方を探っているため、有価証券報告書の記述情報も含めた財務報告としての姿勢についても得られるものがあるハズ。

 紙面にして、たったの4ページ。一読するのに要する時間は、僅かにすぎません。ぜひ、冒頭から順に読み進んで、最後のメッセージを受け取ってください。

 

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