先日、居酒屋に、会計に明るい友人と行ったときのこと。頼んだメニューのひとつが、「ソーセージチーズフォンデュ」なるもの。焼いたソーセージを熱い鉄板に並べ、また、そのうえからチーズをたっぷりとかけた食べ物。
アツアツのソーセージだけを食べるのも良し。それにトロトロのチーズを絡めながら食すのも良し。また、一緒に添えられたパンに鉄板のうえで少しだけ焦げ目がついたチーズを付けて食べるのも良し。どう食べても美味しいメニューに出会いました。
一方、友人との会話も盛り上がる。ソーセージチーズフォンデュを横目に、話に夢中になってしまう。会話が一段落したときに、あのアツアツでトロトロの食感を求めて再び箸を伸ばしました。
ところが。あのアツアツは時間の経過とともに冷めていき、また、あのトロトロはチーズが固まり始めたためにカサカサしだす。この状態でも美味しいのですが、提供された瞬間ほどの感動には至らない。再び食した感触が随分と変わってしまったことに驚きました。
あるものの状態が変化することによって、それを受け取る側の振舞いが変わるさまを見て、「あっ、これ、後発事象と同じだ」と感じたのです。
後発事象のうち財務諸表に注記する「開示後発事象」が必要な理由は、ボクの整理では、将来業績等の推定の精度を高めるため。
財務諸表には、その利用者の意思決定のために必要な情報を提供する機能が求められます。財務諸表で表現されるのは、あくまでも過去の財務情報。当期の売上高がいくらであったか、利益がいくらであったか、純資産はどうか、といった過去の実績が示されます。
財務諸表の利用者は、この過去の財務情報に基づきながら、その会社の翌期の業績などを予測していきます。もちろん、財務諸表の情報だけではなく、ビジネスを巡る環境も含めながらの検討。
ただし、基礎となるのは財務諸表。定量的に表現される情報のため、他社との比較も含めて扱いやすい。そのため、財務諸表の利用者は、これを主として将来の業績等を予測していくのです。当期の売上高はいくらだったから、翌期の売上高はこうなるだろうと。
ここでの前提は、将来の業績等は当期の業績等の延長線上にある、ということ。そもそも非連続な状態を想定するならば、現在の延長線上に将来を置くことはありません。現状から非連続となるような事象が生じない限りは、過去の延長で将来を描きます。
もし、非連続となるような事象が生じた場合に、それが開示されなければ、財務諸表の利用者はそれを知らずに過去の延長線上に将来を置いてしまいます。それでは財務諸表が、その利用者の意思決定のために必要な情報を提供する機能を果たせない。
期末日よりも後に非連続となるような事象が生じた場合には、それを財務諸表に注記しないと、財務諸表の利用者は勘違いしたまま、投資の判断をしてしまいます。知っていたなら、別の投資行動を起こしていたかもしれない事態を招くのです。
ある企業の株式を購入する、売却する、保有し続ける。もし将来の業績等が当期の業績等の延長線上にはないとわかっていたなら、これらとは違う選択もあり得る。その結果、利益となることもあれば、損失となることもある。
だからこそ、期末日よりも後に生じた事象であっても、財務諸表の利用者が将来の業績等を推定するときの精度を高める場合には、それを財務諸表に開示しなければならないのです。開示後発事象は、財務諸表の注記として不可欠なものだと理解できます。
なんて話を冷めたチーズフォンデュを前に、友人にしていたら、こう一言、放ちました。
「はあ?」
いちいち後発事象に絡めるんじゃないと、失笑。しかし、それで良いんです。なぜならば、ボクは『後発事象の実務』(中央経済社)の著者ですから。後発事象を愛している。いや、財務報告そのものが大好き。
何を言われようと呆れられようと、語り続けますよ、後発事象を。チーズフォンデュが友人のほうが多く食べていたから、せめて話で回収しないと、ね。
P.S.
2022年7月に、後発事象の完全版かつ決定版として『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』(中央経済社)が発売になりました。こちらをぜひ。