新型コロナウイルスのビジネスへの影響は、どんどんと広がっています。潜在化していたものが顕在化しています。ビジネスに影響があることは、ビジネスの結果を描写する会計にも影響が及びます。
このタイミングを踏まえると、有価証券報告書の提出を3月に控えた2019年12月決算の企業、また、決算発表を終えたか、あるいは、これから行う2020年1月決算の企業、さらにはコロナウイルスの影響がより深刻に顕在化していく中で決算を迎えた2020年2月決算の企業で、緊急の対応に追われる可能性があります。
これは本決算のため、四半期決算でも同じタイミングとなれば、状況は同じ。1月や2月に四半期決算日を向かえる企業でも同じ悩みを抱えるでしょう。ただし、12月末を四半期決算日とする場合には、すでに四半期報告書を提出しているため、直接的な影響は及んでいないはず。
そこで、コロナウイルスが決算に与える影響を考えてみます。この影響は各社で一様ではありません。マスクやトイレットペーパーが売り切れとなるほどに業績に良い影響が及んでいる企業があります。一方、イベントが中止されて事業が行えなくなっているように、悪い影響が及んでいる企業もあります。
このうち、業績に悪い影響が及ぶ企業でいうなら、おそらく大きな論点は、後発事象ではないでしょうか。後発事象とは、期末日後に生じた事象に対して、それを注記するか、あるいは、決算の数値に反映するかが必要となります。
期末日よりも後にコロナウイルスの感染対応のためにイベントを中止した場合で、実際の損失が巨額に生じているときがあります。無観客でイベントを行った様子を後日の映像化できればまだ救われますが、単純に中止になると、そのために投下した資金を回収することができません。つまり、中止と意思決定した時点をもって巨額の損失が計上される。
また、期末日が政府からイベントを控える要請が出る前であれば、修正後発事象として決算数値に取り込むこともできません。すると、その損失に重要性があれば、開示後発事象として取り扱うこととなります。
2019年12月決算では、すでに会社法の計算書類の財務数値が確定しているため、JICPAの指針に基づき、修正後発事象としては取り扱わない。そこで、有報の財務諸表において開示後発事象に準じた取扱い、つまりは注記とすることになります。
2020年1月決算では、同じ理由で修正後発事象とはなりにくいため、開示後発事象として取り扱う企業が出てくるかもしれません。
一方、2020年2月決算では、2020年1月決算までの企業とは違って、期末日までに政府の自粛要請が行われています。そのため、開示後発事象というよりは、修正後発事象として取り扱うケースも出てくる可能性があります。
ただし、修正後発事象として取り扱うにしても実損部分に限られます。会計仕訳を起票する必要があるから。機会損失では会計仕訳が起票できないため、決算数値を修正しようにも無理。
ちなみに、現時点までの適時開示情報を見る中では、見逃しがなければ、巨額の損失計上に関するリリースはない。また、業績予想への影響については、合理的な算出が可能になり次第、速やかに開⽰する旨をリリースしている企業はあります。影響が見えなければ、やはり修正後発事象にはなりえない。
すると、開示後発事象として取り扱うことになります。あとは、それを注記すべきほどに重要かどうかが論点となる。これを判断するためには、影響する範囲や金額などを特定しなければなりません。
ここ数日間で大きく事態が変化している中で、この見極めは容易ではありません。適切な情報が適時に収集できる体制がなければ、限られた情報と時間の中で適切な財務報告を行っていくのは困難です。
そのための一つの対応策が、ディスクロージャー委員会。2012年に拙著『後発事象の実務』(中央経済社)を発刊して以来、その有用性を提唱し続けているとおり、全社一丸となって財務報告に取り組むのに最適な方法論だと考えています。
この騒動の中でも、あるいは、騒動が落ち着いた後でも、ディスクロージャー委員会を設置して財務報告にあたっていくことを強くお勧めします。平時よりも有事のほうが、その効果を発揮できると考えます。