先日、このブログに「そろそろ日本企業の決算の開示、見直しませんか」という記事を投稿しました。多くの人にアクセスしていただいているようで、有り難いことです。
そこで今日は、その続編として、決算短信をアップデートする方法についてお話しします。もちろん、これは勝手な個人的な見解。でも、お気に召したら、SNSで拡散してくださいね。
ちなみに、この決算短信はいわゆる表紙の2ページ相当のことで、添付する財務諸表は含めていない点にご留意を。
決算短信をアップデートする方法を話す前に、その性格を確認しておきましょう。東証からリリースされている「決算短信・四半期決算短信作成要領等」によれば、決算短信とは、決算の内容を迅速に開示する速報だと位置づけています。事業報告等や有価証券報告書などの法定開示に先立って公表するもの。
このように決算短信は法定開示に対する速報であるため、監査や四半期レビューの手続の終了は求められていない。上場規程で要求されているのは、「決算の内容が定まった場合」に直ちにその内容を開示すること。
監査等の終了を待たずに、「決算の内容が定まった」と判断した時点で早期に開示することが期待されているのであれば、決算短信の在り方をもっと見直せるのではないでしょうか。例えば、次の2つの方策が考えられます。
(1)決算短信の表示単位
現状のフォーマットでは、「百万円」とデフォルトで記載されています。これの単位をもう少し大きくしてはどうでしょうか。
有報の財務諸表での単位は、百万円か千円で表示されています。ある程度の規模であれば百万円単位で表示していることから、決算短信もこれに合わせた表示をデフォルトで記載しているものと推測されます。
しかし、法定開示の速報であるなら、表示単位を揃える必要まではありません。例えば、有報の財務諸表が百万円単位なら、決算短信では億円単位でも構わないはず。実際、業績予想の欄では、表示は百万円となっているものの、記載は億円単位で丸めているケースが少なくないですからね。
(2)法定開示との差異の許容範囲
決算短信で開示した内容に変更や訂正すべき事情が生じた場合には、その内容を「決算発表資料の訂正」として開示することが求められています。ここに重要性という取扱いが明確ではありません。
ところが、決算短信は法定開示の速報です。速報であるなら、法定開示による確定値との完全な一致まで求めなくても良いのではないのでしょうか。そうであるなら、速報値と確定値との差異について、訂正を不要とする許容範囲を設ける方法が考えられます。
業績予想では、売上高なら30%以上の増減、利益は10%以上の増減なら修正不要とする取扱いがあります。企業としては、決算短信の訂正はしたくない意向が働くでしょう。すると、できるだけ確定値となるように、監査や四半期レビューの終了を待っても仕方がない。
このときに、速報値と確定値との差異を一定程度、許容できると、監査等の終了を待たずに開示することの心理的なハードルが低くなります。これによって、決算短信が速報としての機能を十分に発揮できると期待できるのです。
そうそう、(1)の方策も、監査などで検出事項があったときに、会社がそれを直しやすくなる点が挙げられます。検出事項が表示単位の範囲内に収まるなら、決算短信の発表後に数字が動いても支障がないため。やはり、一度、発表した数字を直すことに心理的な抵抗がありますから。
これらの2点は、今すぐにでも導入できる提案。結構、イケてるアップデートだと思いませんか。
ただし、これは現状の決算短信の在り方をベースにしたもの。この在り方すら、やがて変化していくと考えています。なぜなら、記述情報の重要性が増していくから。
3月末決算会社だと、2020年3月期に係る有報から、その前半部分に相当する記述情報を充実させなければなりません。これは、現在の財務諸表が見積りの塊となったことに起因しています。
会計上の見積り項目が増えたことによって、財務情報に不確実性が高まっています。つまり、期末日後に財政状態や経営成績にインパクトを与えかねない項目が潜んでいるのです。以前の財務数値と同じようには取り扱えなくなっています。
そのため、財務情報の意味するところを記述情報によって補足しなければ、財務諸表を適切に読み解けなくなっている。ということは、記述情報がセットでなければ、財務情報だけ切り出しても利用者にとって有益ではない可能性があると指摘できるのです。
だからこそ、これまでのような決算短信の在り方を見直さなければならなくなると考えています。ただ、完全なアップデートまでには時間を要するでしょうから、今日、お話ししたような足元のアップデートから着手しませんか、という提案が必要になってくる。
新型コロナウイルス感染症への対応に追われる一方で、働き方改革で残業規制が課せられている企業にとって、手戻りが生じない開示の制度設計は必要不可欠。開示を行う企業も、それを利用するアナリストも、会計監査を行う監査人も、もっと声をあげましょうよ。