Accounting

有料の配信ライブとKAMとの関係

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

最近、ミュージシャンのライブでオンライン配信するケースが増えてきました。ボクも実際に無観客の配信ライブを体験しています。昨日も視聴したばかり。

この無観客の配信ライブを観て、感じたことがありました。それは、「これって、KAM(監査上の主要な検討事項)でも同じだよね」ってこと。

そこで今日は、配信ライブから学ぶKAMについてお話ししていきます。

有料の配信ライブは2020年6月から成立

多くのミュージシャンが配信ライブを有料で実施しているのは、やはり、サザンオールスターズの功績が大きいですよね。以前に「ダイナミック・プライシングをサザンは導入するか」でお伝えしたとおり、2020年6月の時点で、配信ライブを有料で実施しました。

それまでは、ネットに流れる情報は無料だという固定観念が強かったハズ。インターネットが始まった頃にさかのぼれば、ネット上でクレジットカード決済によって商品を買うことすら抵抗がありまくっていましたからね。

あなたは、ネット上のコンテンツにお金を支払った経験はどれほどありましたか。Amazonや楽天などでモノを買うのは別。テキストや音声、動画といったコンテンツに対して、ネットでお金を払った経験がそう多くはないでしょう。

そういう常識の中で、サザンオールスターズは有料で配信ライブを決行しました。おそらく運営サイドはどこまで視聴されるか心配でしたでしょうけど、結果は大成功。その観客動員数の多さは、ニュースになったほど。あのときに、ミュージシャンのライブは配信でも楽しめる、かつ、有料でも成立することが証明されたのです。

有料の配信ライブの問題点

そんな有料の配信ライブには、ひとつ、課題があります。それは、ネット環境によっては配信が止まってしまうこと。一瞬であったり、数秒であったりと、動画配信がストップしてしまうこと。音楽に乗っていたところ、プスリと途切れてしまうと、一気に興ざめ。

ネットでライブを、しかもお金を支払って楽しもうとしたのには、リアル会場と変わらないことが前提にあります。画面越しであっても、ライブを最初から最後まで通して体験できるからこそ購入しています。

ビジネス系のセミナーが配信ライブで行われるときには、当日の様子を録画した動画を後日に視聴できるように手当しているケースがあります。おそらく、通信が途切れたトラブルに備える意味もあるのでしょう。トラブルは配信側、受信側を問わずに発生しますが、お金を支払っていると、配信側の履行義務が問われます。

先日、ボクが視聴していた有料の配信ライブは、視聴数がとんでもなく多いことが見込まれていたものでした。残念ながら、途中、何度も通信が途切れます。画面を更新したり、ライブのサイトに入り直したりしても繋がらなかったことも何度かありました。他にも同じ症状の方もいたようです。

しかし、何の手当もありません。後日の視聴も用意されていません。仮にブルーレイやDVDなどで円盤化されたときには、改めてお金を支払うことになります。二重払いのような感覚になりますよね。いくら配信側がしっかりやっていたと主張しても、感情的には無理。(2020.11.5追記:後日の視聴が可能になったとのアナウンスがありました。良かったです)

監査人は文章力を高める必要がある

この話が、なぜ、KAMに関係するかというと、情報の送り手と受け手という観点から捉えたときに、ミュージシャンの有料の配信ライブで通信が途切れた状態に近いものがあるから。配信ライブだと、ミュージシャンが送り手で、視聴者が受け手。KAMだと、監査人が送り手で、財務報告の利用者が受け手。

いくら監査人がちゃんと伝えたと主張しても、肝心のKAMの報告が文章として成立していなければ、配信ライブの途切れと同じ。財務報告の利用者に、伝えようとする内容が届かないのです。

また、監査報告書を提出した後に、KAMの記載内容についてフォローできる場もありません。配信ライブの後日視聴が用意されていない状況と同じなんですよ。「金返せ」って要求は、監査人交代の声になるでしょ。

だから、監査人はKAMの文章は伝わるように書かないと、財務報告の利用者から不満を持たれることが必至。

実際、KAMの早期適用の事例を分析したところによると、監査人によって記載のうまい、下手の差があります。同じ監査法人でも、監査チームが異なれば、KAMの文章力に差があります。また、同じ企業に対して複数のKAMが報告されている場合にも、KAMの説明力にはバラつきが見られます。

もしかすると、KAMの文章の下手なのは企業に関係がない、と考える方がいらっしゃるかもしれません。それは間違い。

なぜなら、財務報告の利用者から、KAM協議が十分かつ適切に実施されていないと思われるリスクがあるからです。KAMへの協力姿勢が十分ではないとして、ガバナンスが良くないのではないかと解釈されかねないのです。

そんなふうに企業の観点からのKAM対応を考えているのが、ボクなんです。今月の2020年11月にはKAMに関連した研修をいくつか行います。決して「このKAMの文章が下手だ」なんて説明をすることはありませんが、そんな観点も踏まえたうえで企業のKAM対応についてお話ししていきます。

えっ、どんなことを分析しているかを確かめてから研修などに参加したい、って。そんなときには、KAMの早期適用事例を1社ずつ分析した記事をご覧ください。ブログでは、ミュージシャンの配信ライブのように有料で提供していますが、こちらに無料のお試し版を用意しています。よろしければ、どうぞ。

P.S.

2020年3月期のKAM早期適用事例の解説は、書籍『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』(同文舘出版)として発売されました!

有価証券報告書の提出期限とKAM早期適用前のページ

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