こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
今日の2020年11月6日、企業会計審議会が開催されましたね。議題のメインは、「その他の記載内容」に関する監査基準の改訂です。
監査基準の改訂内容
この「その他の記載内容」とは、「監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容」のこと。有価証券報告書でいえば、監査対象の財務諸表以外の部分ですね。主に記述情報が該当します。
今回の監査基準の改訂によって、「その他の記載内容」に対する手続が明確化されました。、また、監査報告書に「その他の記載内容」の範囲や監査人が報告すべき事項の有無などの記載も求められました。
この他に、リスクアプローチを強化する内容も盛り込まれましたね。
「その他の記載内容」の検討時間の確保
今回の「その他の記載内容」に関する改訂は、企業の財務報告プロセスにも影響が及ぶ可能性があります。具体的には、企業は従来よりも早く、財務諸表以外のドラフトを監査人に提出することが求められかねないのです。
監査人は「その他の記載内容」に対する手続を実施しなければ、監査報告書に記載する内容が決定できません。つまり、手続を実施するための期間を確保しなければならないのです。
そのため、監査人から、監査意見の審査を行う日から一定期間の前に、財務諸表以外のドラフトを提出することが企業に要求される可能性があります。もちろん、従来も「その他の記載内容」に対する手続は実質的には実施されていたため、影響はないと考えるかもしれません。しかし、今回の監査基準の改訂によって監査報告書への記載も必要になったため、より慎重な検討が行われることが容易に想像できます。
企業の財務報告プロセスへの影響
企業によっては、まずは財務諸表の数値をしっかりと固め、その次に「その他の記載内容」の検討が本格化している状況があります。「その他の記載内容」の作成が経理ではない場合には、財務諸表の数値固めと並行して進めている部分もあるかもしれませんが、その数字を待ってから文案を本格的に作成しているケースもあるでしょう。
また、「その他の記載内容」の検討が、財務報告が公表される間際まで続く企業もあるでしょう。財務諸表の数字は固まっていても、「その他の記載内容」がなかなか完成に至らないケースです。
このようなケースの場合、「その他の記載内容」のドラフトを提示する時期が、従来よりも早まると想定されます。財務諸表以外の財務報告の作成を早期化しなければならない可能性があるのです。2022年3月決算に係る財務諸表の監査から適用となるため、3月決算会社の場合、この進行期の2021年3月期に早期化のトライアルを行わなければ、いきなり本番に突入していきます。
考えられる対応策
とにかく、企業の開示担当者は、監査人と「その他の記載内容」の適用に伴う協議を行うことを強く、強く、強く、オススメします。そこで、「御社は現状でも問題ありませんよ」と言ってもらえたら少しは安心して適用を迎えることができます。
しかし、「いや~、今より早く、社内確定のドラフトを提示してもらわないと、ウチは手続ができませんよ」と言われると、何かしらの対応が必要になります。その期間の長さによっては財務報告プロセスの大幅な見直しに迫られる可能性があります。
ちなみに、日本におけるKAMの早期適用の事例を分析したところ、多くの場合に、記述情報の内容に基づきKAMが記載されていました。KAMを参考にして記述情報を作成したケースもあるのでしょうが、いずれにせよ、その整合性を図ることが不可欠です。つまり、「その他の記載内容」がKAMとの整合性を検討すべき事項である場合もあるのです。
そう考えると、KAM協議の場がますます重要かつ有益なものとして位置づけられますね。次のKAM協議で、さっそく「その他の記載内容」への対応を議題にしてはいかがでしょうか。
P.S.
ボクが2020年11月に行うKAM関連の研修では、「その他の記載内容」との関係にも言及する予定です。ご興味のある方は、ご参加ください。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期のKAM早期適用事例の解説は、書籍『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』(同文舘出版)として発売されました!