こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)の真の効果は、企業の開示の充実につながること。そのため、企業の開示や会計処理の動向にも目が離せません。
そんな中、今日の2020年12月16日、IFRSセミナー『IFRSを巡る最新動向』がWEB開催されました。日本公認会計士協会と会計教育研修機構が共催したもの。
昨年は、2019年11月29日に経団連会館でリアル開催されました。まさか、その1年後に、ボクが同じ場所でセミナーを開催しているとは想像もしていませんでしたよ。そのセミナーとは、「『ダイアローグ・ディスクロージャー』実践に向けた対応 ―KAM を利用した『経営者の有価証券報告書』へのパラダイムシフト―」でした。
それはさておき、本日のセミナーを受講して感じたことを備忘記録としてシェアしますね。
公開草案の前に解説
今日のIFRSセミナーのメインは、2021年4月にリリースが予定されている「経営者による説明」(Management Commentary)の公開草案の解説。2021年3月までに公開草案のドラフトを作成しているそうですが、そのリリースを待たずに解説を行っているのが興味深い。
確かに、こうして事前に情報を提供していくことによって、コメントも集まりやすくなり、また、コメントにあたっての考察も深くなるため、確定版をよりよく仕上げられると期待できます。
最近のビジネス書でも、発売前に情報を少しずつ公表していたり、著者のコミュニティで制作過程を共有していたりしているため、効果が見込める進め方だと捉えているのでしょう。日本の会計基準や監査の指針でも、こうした動きがあると関係者の対応も円滑に進みそうです。適用間際に公表されても、しかも公開草案からそこそこ変更もあるのに、実務導入に支障をきたしますからね。
ビジネスモデルの意味内容
経営者による説明とは、日本の金融商品取引法に基づけば、有価証券報告書の記述情報のこと。ここで説明する内容のひとつとして、ビジネスモデルが挙げられています。企業活動とカッコ書きで紹介されています。
このビジネスモデルの定義が、どうも馴染めません。というのも、ボクがビジネスモデル・キャンバスの使い手だから。このツールでいう定義のほうがすんなりと理解できます。これはボクだけの話ではありません。ビジネスで世界的に活用されているツールのため、ビジネスの現場と会計の基準とが乖離しないかが心配。まあ、両方を股にかけている人が少ないでしょうから、ここに違和感を覚える人はあまりいないのかもしれません。
それ以上に心配なのは、ビジネスモデルを説明する理由として、ビジネスの成長の潜在性を評価する目的があるとも解説されていた点。拡張性があるか、スケーラブルか、とビジネスの規模追求の話。ちょうど今、経済思想や社会思想を専門とする斎藤幸平サンの『人新世の「資本論」』を読んでいるところだったので、そういう規模を追求する議論に進んでいくことが時代に逆行しそうな印象も覚えました。
サステナビリティとの関連
また、「経営者による説明」の公開草案では、サステナビリティ報告との関連性についても無視していないことが解説されました。ESG事項への対応が検討されているそうです。こちらは自分自身の関心ごととして、統合報告との関連や親和性、影響について興味を持ちました。
サステナビリティとは別の解説だったかもしれませんが、コミュニケーションで重要なことは「オーディエンスを理解すること」だと話していました。拙著『ダイアローグ・ディスクロージャー』(同文舘出版)の「ダイアローグ・ディスクロージャー・ジャーニー」で、財務報告の利用者である投資家の関心を理解することが始めることを説いた内容に同じ。
もっとも、この「ダイアローグ・ディスクロージャー・ジャーニー」は好き勝手に作ったものではありません。U理論をはじめとして、いくつかの知識体系をベースに創り上げています。だから、本質からブレることがない。こうしてIFRS財団からお墨付きをもらえたようで、ひとり、喜んでいました。
のれんの減損への対応
今回のセミナーの冒頭では、のれんの減損についても言及がありました。償却するかどうかも含めて議論を重ねているとのこと。企業結合における「取得」について、その目的と、業績の事後的な開示を求めることで動いているそうです。
これ、今、ボクが検討を深めようとしているテーマに、ドンピシャでした。減損会計に関して、社内、社外のコミュニケーションが円滑に進めていけるための何かを作りたいと考えているところでした。そのアイデアのひとつを開示から後押しするような話が出たため、これも方向性がズレてはいないことに安心しました。
実は、減損のコミュニケーションについて、コミュニティを作って意見交換したい気持ちでいっぱい。イメージは、オンラインサロン。ボクのほうからアイデアをいくつか出すので、実務上の適用について、あれやこれやの意見を求めたいのです。今、気づきましたが、これ、今日のIFRSセミナーみたいなものですね。
そもそも、そういうニーズはあるのかしら。企業の方々、投資家やアナリストといった利用者の方々、会計士の方々など。少人数でも集まるなら、スタートできればと考えています。参加を希望されるかたは、こっそりとボクに伝えてくださいね。