Accounting

会計上の見積りの開示への準備はできていますか

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

KAM(監査上の主要な検討事項)といえば、会計上の見積り。日本における2020年3月期の上場企業で報告されたKAMの8割以上は、会計上の見積りに関する事項でしたからね。まるで、受験対策の「頻出英単語」のように。

そんな会計上の見積りに関して、2021年3月期以降の年度から強制適用となるものに、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」があります。これに関して、先日、極めて理解が乏しい状態で企業の方に説明している現場に遭遇しましたよ。

基準の8項は例示にすぎない

進行期の期末決算に備えて、この見積り開示の基準への早期の対応を挙げていました。それ自体はとても良いアドバイス。この基準で求められる注記の記載を、あのドタバタした期末決算の最中に考えてもロクなものが作れませんから。

ただ、この基準の説明が随分とおそまつ。例えば、財務諸表利用者の理解に資するその他の情報として注記する事項。基準の8項には、次のものが例示されています。

  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
  • 翌年度の財務諸表に与える影響

その不勉強アドバイザーは、「例示とは言っても、こうして3つが挙げられているため、これらを無視することはできない」とトンデモ発言を行います。いやいやいや、結論の背景の第31項には、チェックリストとして用いるものではなく、例示であることが明記されています。

例示のため、これらのうち、どれかだけでも良ければ、そのすべてでも良い。この他のものでも構わない。企業の置かれている状況が理解できる内容であれば、何も問題ありません。

開示事例を待ってもムダ

また、不勉強アドバイザーは、会社の担当者から「開示例はないのか」と聞かれ、「ASBJからの記載例を待つしかない。まだ事例はないが、期末決算のときに各社が開示するため、それも参考にできる」というトンデモ発言を連発します。

いやいやいやいや、記載例はASBJからは提供されません。これも、基準の31項に記載のとおり、注記の内容は企業によって異なるため、開示の詳細さ(開示の分量)は定めないと明記されています。ボイラープレートを防ぐためもあるのでしょう、開示例を提供しないのは最近の流れです。

また、期末決算の発表を待ってからの検討では、遅すぎます。コピペ的な思考が強いのでしょう、きっと。そんな説明に決して惑わされてはいけません。すぐに、会社の方に正しい情報をお伝えしましたよ。

参考になる開示はすでにある

そもそも、この見積りの開示基準は、IAS第1号の「見積りの不確実性の発生要因」への対応が発端。だから、どのような開示なのかを知りたいなら、IFRSを適用している日本企業の注記が参考になります。

もっとも、IFRSでは日本の注記のように、まとまっては開示されていません。重要な見積りに関する注記はあるものの、項目を列挙したうえで、詳しくはそちらを見てね、という構成になっています。

そのため、個々の注記を見に行き、かつ、そこから見積りに関する注記がどれかを探す必要があります。一発でたどり着けない分、手間がかかることを覚悟しなければなりません。

ところで、減損はどうする

これに関連して、とある解説で、減損損失が計上されたときには、そのことを記載する、といったものがありました。これも違いますよね。それでは、減損損失に至らなかった場合には、注記が不要なのか、という話になりかねない。

たとえば、のれんの減損損失を例にあげるなら、計上された減損損失とは、のれんの帳簿価額と評価額との差額として算定されるもの。会計上の見積りを行っているのは、のれんの評価額のほう。差額を見積もっているのではありません。

であれば、見積りの開示基準に基づき注記するなら、「のれんの評価」について開示することが適切。これについては、結論の背景の23項にその旨が記載されています。

すべての財務報告はKAMに通ずる

ボクは、この見積りの開示基準がKAMと密接に関係するとピンと来たため、基準開発の段階からその過程を追っていました。だから、基準の趣旨や背景が理解できています。また、注記を作成するときにも、アプローチの仕方が見えています。

このように、KAMについて探究していたからこそ、不勉強アドバイザーのようにはならずに済みました。「すべての道はローマに通ず」というように、すべての財務報告はKAMに通ずると言っても過言ではない。

そういう意味では、2021年3月期以降の見積りの開示の内容について、同じ年度における会計上の見積りに関する記述情報と比較する、あるいは、前年度の記述情報と比較すると、財務報告に対する姿勢が垣間見えることがあるかもしれません。

そんな比較検討を行っているのが、2021年2月に発売が予定されている、ボクの新刊『事例からみるKAMのポイントと実務解説: 有価証券報告書の記載を充実させる取り組み』(同文舘出版)。手に入りにくいかもしれませんので、お早めに予約することをオススメします。

P.S.

2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した『事例からみるKAMのポイントと実務解説』の内容は、こちらの紹介ページをご確認ください。

P.P.S.

2021年3月22日に、「見積り開示会計基準のフォーマットを予想する」という記事で、開示のフォーマットについて提案しています。こちらも、どうぞ。

続編は、ブログ記事「減損会計で、見積り開示会計基準「その他の情報」はこう書く」として投稿しています。合わせて、ご覧ください。

P.P.P.S.

Twitterで、見積り開示会計基準への対応についてつぶやいたときに、思いの外、反響があったため、急遽、関連資料をリリースすることとしました。ご興味のあるかたは、こちらから入手してください。

P.P.P.P.S.

見積開示会計基準に関する徹底解説について、書籍『伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス』でおこないました。こちらもご覧ください。

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