Accounting

有報・記述情報のアドバイザリー業務で用いているツール

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

有価証券報告書の記述情報を充実させる改正は、2020年3月期から強制適用となっています。この改正への対応は、一度、充実させれば終わり、というものではありません。

なぜなら、企業が活動していくに伴い経営環境も変化していくため、リスクも変われば、実施した取り組みも自ずと変わるから。そのため、毎年、記述情報の充実は続いていきます。

すでに対応された経験があるなら、記述情報をどう充実させていけばよいのかについて、悩まれたかもしれません。制度趣旨を理解し、また、改正のきっかけとなった金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書を読み、さらに、同グループの資料や議事録にも目を通したことでしょう。

ボクも、これらはチェック済み。もともとは、監査人の立場から、KAM(監査上の主要な検討事項)への対応の一環としてウオッチしていました。

ところが、立場を変えて企業側から眺めたときに、この改正に真摯に対応するためには一定の時間を要すると気づきます。そこで、2019年12月24日に、記述情報をテーマにしたセミナーを開催した次第。

そのときに理解したのは、記述情報の充実の鍵となるのは、いかに企業価値の向上に関連させて記載していくか、ということ。ただ、これだけではお題目にすぎない。具体的にどう展開していくのかが見えてこないのです。セミナー講師を務めた関係上、これにはボクも悩みました。

記述情報を充実できない理由はない

ひとつ、確実に言えるのは、企業の方は、すでに記述情報に対応するための素材を持っていること。毎年、事業活動を展開してきているため、必ず取り組んできたことや直面した状況などがあるからです。つまり、記述情報を充実させる準備は整っている、ということ。

むしろ、どう対応すればよいのかと心配しているのは、真摯に記述情報の充実に向き合っている証拠。テキトーに済ませれば十分と考えている人たちと違うからこそ、丁寧な仕事ができるのです。

そういう意味では、ボクらは、財務報告の充実という志を同じくしています。せっかく、ここまで記事を読んでいただいたからには、記述情報の充実に役立つ内容を提供したい。

そこで、最近、とある上場企業に対して行った記述情報のアドバイザリー業務の経験も踏まえて、記載の仕方のヒントを共有しますね。

企業価値を突き詰めると、、、

記述情報の充実とは、企業価値の向上に関連させること。そう、お話ししました。では、企業価値とは、一体、なんでしょうか。

その答えは、将来キャッシュ・フローの現在価値。ファイナンス理論に基づけば、このような解が得られます。ポイントは、将来に目を向けていること。

いま、どう稼いだかも大事ですが、企業価値の観点からは、将来、どれほど稼げるかがより大事。いくら今が良くても、数年後にシュリンクしていくビジネスなら、企業価値は大きくなりませんからね。

この将来キャッシュ・フローをさらに掘り下げると、ビジネスモデルに行き着きます。継続的にキャッシュ・フローを生み出せるような型(モデル)があるかどうか。実際、ディスクロージャーワーキング・グループの審議の過程では、有価証券報告書にビジネスモデルの記載を求める声もあがっていましたし。

ここまでをまとめると、記述情報の充実に取り組むなら、ビジネスモデルまで掘り下げて検討すべき、ってこと。

ビジネスモデルを描く世界標準のツール

ビジネスモデルとひとくちに言っても、人によって考え方はバラバラ。そうした中でも、ビジネスモデルを描写するにあたって、世界標準で用いられているツールがあります。それが、「ビジネスモデル・キャンバス」です。今や、ビジネスモデルといえば、これ。

1枚のシートに、9つの要素を使ってビジネスモデルを描いていきます。この要素は、それぞれが有機的に関連したものをピックアップしていくのがポイント。

ボクは一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会に所属しながら、ビジネスモデル・キャンバスを業務の中で活用しています。なので、先ほどお話しした記述情報のアドバイザリー業務でも、常にビジネスモデル・キャンバスをベースにして提案しています。

記述情報の充実への活用例

このビジネスモデル・キャンバスを用いると、例えば、事業等のリスクについても、企業価値の向上に密接に関連したものを洗い出すことができます。顧客側だけを取り上げても、こんな感じ。

  • 顧客がもっとも求めているものは何か(→これに応えられないことが最大のリスク)
  • 企業が提供しているものは、顧客の求めや求めの深化に応えているか(→新規の提案や開発が必要となる)
  • 顧客にどう認知されるか(→認知度が低いままだと、売上が大きくならない)
  • 顧客とどう関係を維持していくか(→一度切りの関係よりも継続的な関係のほうが将来キャッシュ・フローは安定する)
  • 競合他社との価格競争に巻き込まれている(→持続可能性が問われる)

ざっくり、一般的な話をしても少なくとも9つの要素について、“企業価値の向上に密接に関連したリスク”を洗い出すことができます。これに企業固有の情報を加味すると、リスク情報はよりピンポイントに、より深い内容で開示することができます。

記述情報の充実で企業価値を高める

このような開示の結果、投資家は企業の将来を検討しやすくなります。また、企業価値の向上に関連したリスクを掲げているため、投資家にとってのサプライズも少なくなります。こうして資本コストが下がることから、企業価値の増大にもつながります。

このように、企業価値の向上に関連した記述情報を充実させると、めぐりめぐって企業価値が高まるのです。管理部門が企業価値の向上に直接的に貢献できる絶好の機会があるのに、それを見逃すなんてあり得ません。

とはいっても、これはビジネスモデル・キャンバスを使って、ビジネスモデルのエッセンスを短時間で整理していくことに不慣れなこともあるでしょう。そのときには、ご相談ください。

そうそう、決算日を過ぎてからのご相談でも、まだまだ対応できることはありますよ。

P.S.

拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』では、KAMが早期適用された企業における、オススメの記述情報も紹介しています。リスク情報の優良事例もご覧いただけますよ。

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