こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)は、監査人の監査報告書に記載されるもの。これは法定化されているため、記載を免れることはできません。KAMがないときにも、その旨が必要です。
これに対して、監査役等は、どのように対処すべきなのでしょうか。
そもそも監査役等の監査報告書は、会社法で求められるもの。KAMが必須化されている金融商品取引法とは別の話。
また、監査人が会社法に基づく監査報告書にKAMを任意で報告したときには、何か言及すべきなのかどうかも気になるところ。従来の記載に何か加えなければならないのかは、そうした事態に備えて押さえておきたいポイント。
そんな中、監査役等の監査報告書におけるKAMの取扱いを示した文書がリリースされました。それは2021年2月26日に、日本監査役協会からの公表された「監査上の主要な検討事項(KAM)及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」。ここでは、「KAM取扱文書」と呼んでいきます。
4つのパターンで文例を整理
KAM取扱文書では、3つの論点について、検討のポイントと監査役等の監査報告書における文例が紹介されています。その論点のひとつが、「監査上の主要な検討事項(KAM)について」です。
もっとも、金融商品取引法でKAM の記載が義務付けられない会社では、従来と実務が変わるところがありません。そのため、監査役等の監査報告書に関するひな型も現行のものから変更がありません。
論点となるのは、金融商品取引法でKAM の記載が義務付けられる会社の場合です。KAM取扱文書では、次の2つの観点から、議論を整理しています。
- (A)会社法上の会計監査人の監査報告書でKAMが任意記載されるかどうか
- (B)監査役等の監査報告においてKAMに明示的に言及するかどうか
最終的に、監査役等の監査報告書の文例は、これらを組み合わせた4パターンで提示しています。こういう議論はきれいですね。
日本監査役協会のKAMへの意気込み
観点(B)については、必ずしも記載を追加する必要はないと説明されています。というのも、監査役等は会計監査人の監査の方法を評価するため、KAMはその一要素にすぎないから。すると、現行のひな型の記載で間に合います。
しかし。
日本監査役協会さんは、ここで終わることなく、一歩を踏み出します。KAMに大きな期待が寄せられていることを背景として、監査役等もKAMについて言及することにも意義があるとして、積極的な姿勢を打ち出します。
それが、観点(B)でいう、監査役等がKAMについて言及する場合の文例です。KAM取扱文書では(A)の別に文例が新しく提示されています。それを1つにまとめるなら、次のとおり。
「なお、監査上の主要な検討事項については、〔監査人〕と協議を行うとともに、その監査の実施状況について報告を受け、必要に応じて説明を求めました。」
2021年の日本監査役協会の会長による年頭の挨拶でも、2021年3月期からKAMが義務化されることへの対応に言及しているとおり、KAM制度への期待を踏まえた対応への意気込みが伝わってきます。そのひとつが、このKAM取扱文書なのでしょう。
KAM早期適用事例における監査役等の記載
2020年3月期の上場企業でKAMが早期適用された事例の中に、1社だけ、会社法における会計監査人の監査報告書においてKAMが任意報告されたものがありました。その会社は三菱UFJフィナンシャル・グループ、監査人は有限責任監査法人トーマツです。
こちらの会社では、監査委員会が設置されています。監査委員会の監査報告書に、KAMへの言及がありました。「1.監査の方法及びその内容」の最後の段落で、次のように記載されています。
さらに、会計監査人が独立の立場を保持し、かつ、適正な監査を実施しているかを監視及び検証するとともに、会計監査人からその職務の執行状況及び監査上の主要な検討事項について報告を受け、必要に応じて説明を求め協議を行いました。
KAM取扱文書では、KAMだけを取り上げた文例でした。それに対して、この事例では、会計監査人の職務の執行状況と並べた記載としています。確かに、「報告を受け、必要に応じて説明を求めた」と同じ記載をするなら、まとめたほうがスッキリします。
また、KAMに対して実施した内容は、KAM取扱文書とは異なり、「協議した」ことも添えられています。KAMは監査人が監査役等と協議した事項の中から決定されるプロセスを踏まえるなら、「協議した」という一文はよく練られた文章だと感心するばかり。
忘れてはいけない、有報の記載の更新
話は変わって、金融商品取引法の有価証券報告書。その「第4【提出会社の状況】 4【コーポレート・ガバナンスの状況等】 (3)【監査の状況】」では、監査役監査の状況の記載が求められています。
ここ、2021年3月期からの記載に注意が必要です。監査役等は、監査人とKAMについて協議しているから。そのことへの言及は不可欠でしょう。
ボクの調査では、2020年3月期に係る有価証券報告書のこの箇所で、「監査上の主要な検討事項」あるいは「KAM」に言及していた企業は、72社。このうち、早期適用企業は、12社。ここからわかることは、次の2点。
- KAMが早期適用されていなくても、直前まで早期適用を検討していたり、ドライランとして試行していたりするなら、KAMについて協議していた旨を記載した企業があること
- KAMが早期適用された企業でも、その協議について言及がないものもあったこと
2021年3月期からKAMが強制適用となるなら、その協議を行った旨は積極的に記載したいところ。記載の更新を忘れていないことの強調としても有効です。ぜひ、ご検討ください。
P.S.
企業におけるKAMへの対応について知りたいときには、『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』(同文舘出版)をご覧になられてはいかがでしょうか。ボクが書いた本ではありますが、企業側からの対応も踏まえて執筆したため、お役に立てる箇所もあるハズ。