こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
このブログでは、2021年3月期におけるKAM(監査上の主要な検討事項)の強制適用の状況をお伝えしています。
2021年6月10日には、5社目のKAMが報告されました。前日と事例が続いたため、もう少し数が出てくるかと期待したために、状況を様子見していました。しかし、その後、週末にかけて事例は登場していません。(って書いていたら、今日の2021年6月14日に事例が2社登場しました。それについては、また後日にでも。)
そこで、5社目のKAM強制適用事例を簡単にシェアしますね。注目すべきは、キー・オブ・キーの仮定です。
5社目のKAM強制適用事例
(1)事例
- 証券コード 8366
- 会社名 ㈱滋賀銀行
- 業種 銀行業
- 開示書類 有価証券報告書
- 決算日 2021年3月31日
- 監査法人 有限責任監査法人トーマツ
- 会計方式 日本基準
(2)強制適用によるKAM
連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAM
- 貸倒引当金の算定
個別財務諸表の監査報告書に記載されたKAM
- 貸倒引当金の算定(連結と同一内容ではあるが、記載を省略する規定は適用していない)
所見
文字数で見てみると、連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAMでは、KAMの内容及び決定理由では945文字、また、監査上の対応では542文字でした。拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』で調査した結果(P.13~14)に照らすと、監査上の対応はボリュームゾーンに該当しているのに対して、KAMの内容及び決定理由はそれを超えています。
KAMの内容及び決定理由で文字数が多いものの、監査人オリジナルの文章で構成されているところに特徴があります。企業の開示を引用しまくったことで文字数を稼いでいるワケではないのです。企業の開示以上に深めた報告をしている点は評価されるものでしょう。
ただ、気になるのは、企業の開示も頑張って記載している点です。見積り開示会計基準に基づく注記では、主要な仮定が「債務者区分の判定における貸出先の将来の業績見通し」であるといいます。でも、ここで説明は終わりません。
キー・オブ・キーとしての仮定
主要な仮定のうち重要な影響を与える可能性の仮定として「新型コロナウイルス感染症の影響に関する仮定」を挙げ、かつ、それを説明しているのです。キー・オブ・キーといえる仮定について企業は注記をしています。
一方、KAMでは、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する仮定」への言及はあるものの、非常にさっぱりと触れるにとどまっています。全体的な文字数に照らしたときには、付け足し程度のような印象も受けます。
すると気になるのは、企業と監査人との間で、財務諸表の重要な事項がどの程度共有されていたのかどうか、ということ。「貸倒引当金」という科目レベルでは一致しているものの、主要な仮定のうち重要な影響を与える仮定レベルでは、こうして違いがあるように受け取れます。
不一致の状況を放置するか、それとも、向き合うか
もちろん、すべてが一致する必要はありません。この事例ではなく一般論として、両者が自身の立場に基づき合理的な説明が可能であれば、何ら問題ありません。
しかし、合理的な説明ができないとすれば、経営者はもちろんのこと監査役等もどのような協議を行ったかが問われるでしょう。それは監査人も同じです。
こんなKAMの読み解き方に興味があれば、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』や専門誌への寄稿、ブログ記事、セミナーなどをご利用ください。一年ほど前から、KAMを通じて企業と監査人とが認識を共有しているかどうかを分析した結果を発信しているからです。
こうして強制適用が始まると自社の状況に照らして考えることができるため、今まで考えてもいなかった観点からの気付きが得られるでしょう。実際、先日も、上場企業の方にこうした分析をお伝えしたところ、「そういう観点で開示を考えていかなければいけないですね」とKAMとの向き合い方が変わりました。
それでも、まだ、KAMとは無関係に財務報告を行いますか。
P.S.
見積開示会計基準に関する徹底解説について、書籍『伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス』でおこないました。こちらもご覧ください。