ご存じでしたか。後発事象の実務上のガイドラインが改正される、ってことを。
それは、JICPAのウェブサイトをチェックしていたときのこと。2022年3月31日にアップされた「お知らせ」の中に、「監査基準委員会有識者懇談会(2022年2月14日)の議事要旨等の公表について」がありました。
この有識者懇談会とは、JICPAにおける基準策定プロセスを改善するために設置されたものです。監査の国際的な基準設定において、会計士の意見に偏った基準が設定されているのではないかと批判があったようですね。
そこで、JICPAでも、ガバナンス改革の一環として、有識者懇談会を設定したとのこと。改正を予定している監査の指針を取りまとめるにあたって、財務諸表の作成者や利用者、学識経験者の意見を聞きながら、社会的な合意を得るそうです。また、有識者懇談会の議事要旨や会議資料は、JICPAのウェブサイトにアップされます。
これらの関連資料には、思いがけない副次的な効果がありました。それは、これらの資料をみることで、今後、改正の予定がある監査の指針がつかめるのです。今までは、いきなり公開草案が出ていたのが、その開発状況が理解できるようになっているのです。
そこで、ちらりと眺めていたところ、非常に馴染みのある文字が飛び込んできましたよ。それが、監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」の改正。
ホラ、『後発事象の実務』という本を書いていることもあって、後発事象の動きには目が離せません。興味津々で改正を検討している内容を探しました。すると、骨子は変更することなく、次の論点を中心に改正を予定しているそうです。
- 事後判明事実
- 会計上の見積りの開示
- 開示後発事象
- IAS/IFRSを踏まえたアップデート
- その他(起草方針に基づく項番の付与等、構成スタイルの変更)
とはいえ、内容よりも気になったのが、こうした監査の指針の開発状況について、もっとオープンにしたほうが良いのではないか、という点。確かに、こうして情報にアクセスできるのですが、それは有識者懇談会の資料として公表されているに過ぎません。
そうではなく、ASBJサンの「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」のように、開発状況を直接的に開示するような形になったほうが良いと考えています。なぜなら、公開草案に対して優良なコメントが集まる確率が高まるから。
いきなり公開草案を提示して「さあ、考えなさい」という姿勢では、受け手としても十分な検討が行えない可能性があるからです。実際、今回の76号の改正スケジュールは、次のとおり、予定されています。
- 2022年3月の常務理事会承認後に、公開草案のリリース
- 寄せられたコメントを踏まえた検討
- 2022年6月の常務理事会承認後に、確定版のリリース
これでは、ちょうど3月決算のスケジュールと重なります。会計士も企業も、公開草案から出てから検討する余裕はないはず。
であれば、事前に、どの指針が改正されようとしているか、また、どのように改正されようとしているかがある程度、オープンにしてはどうでしょうか。検討時間を確保しやすくなるため、はるかに効果的です。それこそ、有識者懇談会の設置目的である、基準策定のプロセスの透明化という趣旨にも適います。
すでに、有識者懇談会の資料として作成しているものがあるため、追加的な作業といえば、ウェブサイトへの掲載だけ。大した労力はかかりません。というワケで、JICPAのお偉い方に、この声よ、届け。
そうそう、76号の改正内容に、アノ論点が明示されていないのが気になりますね。国際監査基準との乖離が継続しそうなんだけど。公開草案がリリースされたら、コメントを寄せてみようっと。
P.S.
拙著『後発事象の実務』を発売したのが、2012年10月のこと。あれから10年が経過しました。76号の改正を機に、全面改正した内容をお届けしたいな。