この2022年3月期の決算から強制適用となる会計基準には、「収益認識に関する会計基準」のみならず、「時価の算定に関する会計基準」等もあります。これ、何気にノーマークな論点かもしれません。
しかし、収益認識と同じく、会計処理は従来と変わらなくても、注記事項が随分と変わります。表示検討を準備する時期になって、それを痛感することもあるでしょう。「ええっ、こんな注記が必要になるの」って。
というのも、改正されたものとしてクローズアップされるのが、「時価の算定に関する会計基準」であることが多いため。その適用指針とともに、2019年7月に新設されたことから、こちらの学習は進めていたハズ。ほら、時価の算定にあたって、レベル1から3までのインプットがある、ってやつ。
その結果、「なんだ、影響ないじゃん」と誤解したために、意識は収益認識や日常業務への対応に向いたことでしょう。恥ずかしながら、ボクもそのひとり。実は、ここで理解を止めてはいけなかったのです。
レベルごとの時価開示
なぜなら、レベル1から3という区分が、金融商品の時価開示のほうに影響するから。具体的には、金融商品会計基準第40-2項(3)で新たに要求された「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」のこと。ここで、レベル別に時価情報を開示しなければなりません。
そのことは、「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」で説明されています。これ、時価算定の会計基準や適用指針と同じく2019年7月にリリースされています。この適用指針まで辿り着かないと、金融商品の時価開示がここまで変わるとは気づかないのです。
で、表示検討を検討し始めたときになって、はじめて「あれ、ここも改正論点だ」と慌てだす。「ヤバい、何も検討していないぞ」と。
しかし、ご安心ください。金融業でなければ、基本的には、記載上の対応で間に合います。収益認識の注記事項のように、追加的に情報を収集して加工するといった手間はおそらくないでしょう。
帳簿価額に近似するものの取扱い
しかも、朗報もあります。これまで開示していた「金融商品の時価等に関する事項」のほうで、記載を省略できる規定(金融商品の時価等の開示に関する適用指針第4項(1))が明確になりました。
従来は、「原則として、金融商品に関する貸借対照表の科目ごと」に網羅的な時価情報の開示が求められていました。時価と帳簿価額に変わりがないものまで記載するため、差額欄の「―」が目立つこともありますよね。そんな表を見て、「なんだかなあ」と思ったものです。
ところが、改正された規定では、この原則に続いて、ただし書きが加わりました。これによって、現金と、短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するものとについては、注記を堂々と省略できるようになったのです。この規定をうまく活用すれば、表の記載がすっきりしますね。意味のある情報にフォーカスした開示が行えます。
非上場会社への配慮
とはいえ、新しく開示が求められる「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」も看過できません。いくら記載上の対応で済むにしても、開示量が増えるのは紛れもない事実。また、作成者には、正確な開示にあたっての心理的な負担もかかります。
有価証券報告書を作成していないような非上場会社にまで、ここまでの開示を要求するとしたら、酷な話。他の注記事項とのバランスも悪い。「一体、どうするんだ」と思っていたら、会社計算規則でち~ゃんと配慮がなされていましたよ。
金融商品に関する注記を定めた第109条に、有価証券報告書の提出会社であり、かつ、大会社に該当する株式会社でなければ、「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」、つまりは「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の記載を省略できると明記されています。
ということは、会社法監査のみ受けている会社では、新規の追加開示が不要となるばかりか、既存の開示「金融商品の時価等に関する事項」において短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するものを省略できる効果も得られます。つまり、従来よりも開示の手間を減らせるのです。
おっと、これは作成者サイドとしては、オトクな改正といえますね。気分は、改正でいやほい。