その見積開示の注記。もしかすると、リスクを過大に表現しているかもしれません。
企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に基づく注記事例を分析する中で、このような懸念を抱くことがあります。その原因を探るとともに、次の2点について対策を講じる必要があると考えています。
- 見積開示会計基準の趣旨と期待されている開示を理解すること
- 具体的な項目について「選び方」と「書き方」を習得すること
そこで、昨日の2022年11月4日に、見積開示に関するセミナーを収録してきました。タイトルは、「《開示担当者・責任者のための》見積開示会計基準実践講座」です。
開示項目はそれで良いか
見積開示として注記する項目は、3要素をすべて満たす必要があります。それゆえに、比較的少数となることも知られています。それは決して、期末の残高が多額であることではありません。それでは3要素のひとつを満たしていないからです。
この3要素は、英国のFRC(財務報告評議会)が公表しているレポートで、明確に示されているものです。もちろん、日本の見積開示会計基準にもあてはまります。
この3要素をすべて満たす会計上の見積りに関する項目を開示するため、必ずしも財務諸表に記載された残高や計上額をそのまま注記するものでもありません。結果的に一致することはあっても、3要素を満たす項目を特定しなければ、見積開示として注記すべき項目には該当しないのです。
そのような観点から開示事例を分析すると、「それは見積開示の注記には該当しないものではないか」「開示された項目以外にも該当するものがあるのではないか」と疑問に思うことがあるのです。
この場合、企業が想定しているリスクを適切に開示できていないことを意味します。つまりは、財務諸表の利用者から、開示した項目についてのリスクが誤解されかねない。資本コストを高める結果、企業価値の評価を低める状況を招くことも想定されます。
したがって、そもそも開示項目が適切かどうか、慎重な検討が求められるのです。このことをセミナーで説明するとともに、「見積開示キャンバス」というツールを用いて有機的な関連を可視化しました。
開示する内容は期待に沿うものか
見積開示の注記として開示する項目が適切であっても、それについて開示する内容が財務諸表の利用者の期待に十分に応えていない可能性も指摘できます。
見積開示会計基準では、(1)項目名、(2)計上金額、(3)理解に資する情報について注記することを求めています。このうち「理解に資する情報」の例として、算出方法、主要な仮定、翌期影響が挙げられています。これらの意図するところは、的確に理解されているでしょうか。
見積開示会計基準が示す「結論の背景」に加えて、FRCレポートまで押さえると、見積開示で期待される内容が立体的に理解できるようになります。というのも、(1)項目名、(2)計上金額、(3)理解に資する情報は、財務諸表の利用者が関心を寄せる一連のストーリーに他ならないから。
このストーリーがどういうものか、また、そのためには何を書くべきかについて有機的に関連していることを、セミナーでは解説しました。もちろん、見積開示キャンバスも用いることで、それぞれの関連も可視化しました。
11のテーマに沿った優良事例
見積開示の「書き方」では、頻出するテーマを中心として、優良な開示事例も紹介しています。FRCレポートが期待する開示内容が、実際、どのように記載されているかがわかるように工夫も凝らしました。
ちなみに、11のテーマとは、次のとおり。1つのテーマで複数の事例を紹介しているものもあります。
- 識別なし
- 減損(固定資産)
- 減損(のれん)
- 繰延税金資産の回収可能性
- 貸倒引当金
- 棚卸資産の評価
- 退職給付債務
- 収益認識
- 関係会社株式の評価
- ロシア関連
- 経年変化の説明
圧巻なのは、「経年変化の説明」でしょう。KAM(監査上の主要な検討事項)で前期との違いを任意で説明した事例は登場していたものの、まさか、見積開示の注記でもこうした任意の記載が主体的に行われるとは想像もしていませんでした。かなりの刺激になることでしょう。
見積監査への対応も
そうそう、見積監査にどのように備えるかについても解説しました。というのも、監査人から感応度分析の実施が求められる可能性があるから。見積開示の注記で翌期影響を記載するときの話だけではなく、監査対応としても迫られる局面があるのです。
この話を展開するにあたって、2023年3月期から強制適用となる改正監基報540「会計上の見積りの監査」の解説が欠かせません。そこで、最も実施が想定される手続について、A4横サイズで一望できるスライドを提示しました。
これは、IAASB(国際監査・保証基準審議会)が公表している解説資料を参考に作成したもの。見積監査における監査手続の概要が一枚でまとめているため、何気に、監査法人の方々が欲しがるようなスライドかもしれませんね。
そんなこんなのセミナーは、基準の趣旨を徹底理解するためであったり、厳選された優良な事例とポイントを得られたりと、実践的な内容に仕上がっていると自負しています。昨年に開催した同様のセミナーから構成を大幅に変更しているため、より理解しやすくなっていると考えています。
見積開示というテーマだけで3時間のセミナーで、また、スライドの総数は、101ページ。本を一冊書き上げる勢いで取り組みました。視聴期間は、2022年11月15日から 2022年12月15日までの1ヶ月。現在、他では開催を予定しておりませんので、この機会をお見逃しなく。