今日の2023年5月31日、2023年3月期の有価証券報告書の第1号が登場しました。つまり、義務化されたサステナビリティ開示の初事例です。
今年からサステナビリティ開示が必要となるため、全体として有価証券報告書の提出日が遅くなるのではないかと予想していました。しかし、この第1号は、その影響をまったく受けていません。もちろん、開示担当者のご苦労は相当のものだったと推察されます。
その会社は、株式会社スクロール。株主総会が早いため、有価証券報告書の提出も早いんですよね。3期間の状況は次のとおり。
前々期 | 前期 | 当期 | |
2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | |
有報提出日 | 2021年5月28日(金) | 2022年5月31日(火) | 2023年5月31日(水) |
提出順位 | 第1位 | 第2位 | 第1位 |
株主総会開催日 | 2021年5月28日(金) | 2022年5月31日(火) | 2023年5月31日(水) |
で、「サステナビリティに関する考え方及び取組」に何が記載されたのか。記載が必須の人材の育成及び社内環境整備を除くと、気候変動でした。
また、開示にあたって、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のフレームワークに基づき開示した旨も記載されています。そのためか、「ガバナンス」と「リスク管理」のみならず、「戦略」と「指標と目標」まで開示しています。
しかも、「戦略」では、財務的影響までは言及されていないものの、「シナリオ分析」まで記載しています。また、「指標と目標」における実績は、概算値や前年度の情報ではなく、「当連結会計年度」として記載しています。2023年5月31日に開示しているという点を踏まえると、ここまで開示してくるとは驚きを隠せません。
これは、以前から取り組んでいるに違いないと、同社のサイトでIR情報を調べてみると、「統合報告書 2022」を発行していました。これは、2021年度(2021年4月1日~ 2022年3月31日)を対象としたものです。そこで、すでにTCFDに沿った開示が行われていました。これをベースにしながら、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示を行った模様です。
ちなみに、同社では、「事業等のリスク」において、リスクマネジメント体制が説明されています。気候変動との整合性も取りつつ、各種のリスクについてポイントを端的に説明しています。こうしてリスク管理の取り組みが成熟していたことが、サステナビリティ情報の充実かつ適時な開示に繋がっているものと考えられます。
こちらの事例をご覧になるときには、サステナビリティ開示のみならず、リスクマネジメントについても分析することをオススメします。
P.S.
サステナビリティ開示に苦慮されているなら、こちらのセミナーがお役に立つでしょう。視聴期間は1ヶ月を切っていますので、お早めにご覧ください。
P.P.S.
サステナビリティ開示において、会社が、スコープ2におけるCO2排出量削減率を2030年度までに50%以上削減すると記載しています。一方で、KAM(監査上の主要な検討事項)は、前期と同じ減損を取り扱い、また、文面はほぼ同じでした。こうした日本の監査報告書を見ていると、英国のように、気候変動が財務諸表監査に影響を及ぼすのかどうかの説明を求めたくなりますね。