Accounting

KAM前期比較の技術が明かす財務リスクの隠れたメッセージ

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 「KAMの記載が前年度から変わっていないという事実が、財務リスクに対するメッセージになる」

このコメントがとても印象に残っています。これは、昨日の2024年9月17日、一般社団法人企業研究会主催のセミナー「財務リスクの変化を見抜くKAM前期比較の技術~2024年3月期までの直近事例から得られる洞察~」に参加した受講者の感想です。この一言が、KAM(監査上の主要な検討事項)の持つ意義と役割の重要性を鮮明に浮かび上がらせます。

セミナーでは、KAMの前期比較という手法によって企業の財務リスクの変化を読み取る方法を解説しました。具体的には、前年度と当年度のKAMの記載を比較することで、その背後にある監査人の意図や企業のリスク状況を見極める技術です。興味深いことに、この手法は、いわゆる「ボイラープレート化」されたKAMにも有効です。記載内容が「変わらない」という事実そのものが、企業のリスクプロファイルの安定性や、監査人の見解が変わらないことを示す可能性があるのです。

 

すべての変化には意図が存在します。同じテーマのKAMが継続して報告される場合でも、その記載内容に変更が加えられる際には、明確な理由が隠されています。KAMの前期比較は、まさにその理由を読み解くための鍵となるのです。

例えば、プレゼンテーションスライドでの微細な変更が受け手に異なる文脈を感じさせるように、KAMの記載の微妙な変化もまた、投資家や利害関係者に異なるメッセージを送ります。このため、なぜその変更が行われたのか、そしてその背後にどのような意図があるのかを理解することが不可欠です。

KAMの前期比較は、単に記載の変化を捉えるための手法ではありません。それは監査人の判断や企業のリスクマネジメントの姿勢を深く洞察するためのツールです。このセミナーで強調したのは、KAMを深く理解することで、財務リスクの評価に対する見識を高めることができる点です。今後もこうした教育やトレーニングの機会が拡充されることで、より多くの実務者がこの視点を持つようになることを期待します。

 

企業の健全性を見極めるための手段として、KAMの前期比較は今後ますます重要な役割を果たすことでしょう。また、監査報告書が単なる形式的なドキュメントではなく、企業とそのステークホルダーとの間で交わされるコミュニケーションツールとして機能するためには、私たちもその変化を敏感に感じ取り、かつ、理解を深める必要があります。

たとえ、それがボイラープレート化された記載であっても、前年度から変わらないという事実に秘められたメッセージを読み解く力を養うことが、これからの財務リスク管理においてますます求められます。今後も、私たちがこの変化を見逃すことなく、新たな洞察を追求し続けることが肝要です。

このようなセミナーを通じて、KAMの理解がより深まることを期待しつつ、あなたとともに一歩ずつ進んでいけることを楽しみにしています。次回のセミナーでお会いしましょう。

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