2025年4月9日、IFRS財団とTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とが覚書に署名したというニュースが発表されました。表向きは控えめな発表でしたが、その意味は小さくありません。これは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が進めているBEES(生物多様性・生態系・生態系サービス)の調査研究において、TNFD提言が正面から取り上げられることを意味するからです。
この覚書は、「将来的にTNFDの提言がISSBの開示基準に組み込まれる可能性がある」という、穏やかでありながら極めて大きなインパクトを含んでいます。言ってしまえば、「次に来るセリフはもう書かれている」ようなもの。制度設計の伏線は、すでに何本も張られているのですよ。
というのも、TNFDはTCFDの設計思想を踏襲し、また、その関係者ネットワークも重なります。この構造的背景については、2023年7月の投稿記事「気候変動が財務報告制度に組み込まれるまでの座組」と「自然関連のサステナビリティ開示を巡る座組」で詳しく説明しています。
とはいえ、そう簡単に“取り込み完了”とはいきません。TNFD提言とISSB基準との間には、微妙で根深い前提の違いがあるからです。特に2023年10月の投稿記事「TNFD提言とISSB基準との整合性ショートレビュー」で指摘したように、「インパクト」に関する開示の扱いが最大の焦点となるでしょう。少なくともTNFD提言が公表された時点ではそう言えましたね。