2025年7月3日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は「SASBスタンダード」修正案および「IFRS S2号の適用に関する産業別ガイダンス」修正案を公表しました。この発表を受けて、一部の企業では「これらは考慮義務だから、たとえ不適当な修正が行われても適用を見送れば問題ない」という楽観的な解釈が広がっているかもしれません。
しかし、これは極めて危険な誤解です。ISSBは将来的にこれらを拘束力ある規範へと格上げする方針を明言しているのですからね。現段階の議論は決して過渡期の小さな調整ではありません。企業のサステナビリティ開示戦略を根本から規定する、歴史的な分岐点となる可能性があるのです。
日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は7月29日の第55回会合以降、基準設定主体としての視点から開発アプローチの評価に注力しています。しかし考えてみてください。産業固有の開示要求の妥当性を最も深く理解できるのは、他ならぬその産業に身を置く企業自身です。その企業が沈黙を続ければ、不十分あるいは不適切な修正が国際基準として固定化されかねません。そんなリスクを直視する必要があるのです。
そこで本稿では、第55回と第56回のSSBJ会合の審議内容を踏まえ、今回の修正案が抱える四つの構造的欠陥を整理するとともに、企業に求められる戦略的対応を提起します。問題を先送りする企業は、将来のルールメイキングから完全に締め出されるのですから。