2025年9月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S2号「気候関連開示」において、ある意味では驚くべき、ある意味では必然的な方向転換を決定しました。これまで、商業銀行または保険を行う企業がファイナンスド・エミッション(スコープ3カテゴリー15)を産業別に開示する際、これまで義務とされてきたGICS(世界産業分類基準)の使用を、必須ではなくしたのです。
この決定は、ISSBが長らく依拠してきた「比較可能性」という概念そのものを、根底から問い直す動きなのですよ。統一的な分類体系のもとで得られる形式的な整合性よりも、投資家が実際に気候関連リスクを理解し、意思決定に活かせる情報の有用性を重視する方向へと、基準の重心が移ったことを意味するのですから。
言い換えれば、ISSBは「比較しやすい」ことと「理解しやすい」ことの両立を、新たな形で模索し始めたわけですね。これは、サステナビリティ開示制度が成熟期に入ったことを告げる、静かな革命といえるでしょう。






