2026年3月13日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は温室効果ガス排出の開示に関する気候関連開示基準の改正を公表しました。ISSBが2025年12月に公表した「温室効果ガス排出の開示に対する修正―IFRS S2号の修正」への対応として、国際基準との整合性維持を旗印に進められた改正です。
SSBJはこの改正を「ISSBと整合している」と説明しています。しかし、私が2026年1月27日付で提出したコメントレターとSSBJの応答を読み比べると、改正気候基準の規定文のみを読んだ場合に、実務で判断を誤りうる箇所が複数存在することが分かります。
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これは読み方の違いにとどまりません。適用を誤れば、必要以上の開示をしてしまう、逆に必要な開示が漏れる、保証対応をやり直す、保証実施者と解釈が食い違うといった形で、作業量と調整コストが直接増加します。「整合している」という言葉を額面通りに受け取ったとき、実務の現場で何が起きるかを、本稿は具体的に示します。
本稿の目的は、そのような箇所を具体的に示したうえで、実務上どこに注意すべきかを明らかにすることです。想定読者は、開示資料を作成する担当者、保証業務を行う監査人・第三者保証実施者、そして社内の取扱基準や作業手順を整備する担当者です。なお、こうした問題が生じた背景には基準設定プロセスに内在する構造的要因があります。その分析は後半で論じるため、制度設計に関心のある読者はそちらも参照してください。
■改正の概要
改正気候基準のうち、実務への影響が大きい変更は4点あります。
第一は、カテゴリー15の範囲限定(第56-2項)です。この改正により、ファイナンスド・エミッション以外の温室効果ガス排出をスコープ3カテゴリー15から除外することが可能となりました。
第二は、除外した場合の説明義務(第56-3項)です。カテゴリー15から排出を除外した場合には、関連する金融活動等の説明が求められます。
第三は、ファイナンスド・エミッションの小計開示(第56-4項)です。カテゴリー15の開示に含めたファイナンスド・エミッションの合計を、小計として別途示すことが求められます。
第四は、産業分類システムの選択(C5項(5)・C6項(5))です。従来のGICS(世界産業分類基準)一択から、移行リスクの把握に役立つ産業分類システムを選択する設計へと変更されました。
このほかに、GHGプロトコルとは異なる測定方法を用いる場合の法域別救済措置をグループ内の一部にも適用できることの明確化(第49項)と、地球温暖化係数に関する法域別救済措置の新設(第66項・第68項)があります。ただし、これら二点については規定文の読み方で大きく迷いやすい論点ではないため、本稿では前四者に絞って論じます。





