第67回SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の審議を受けて、前々稿「『二度手間の回避』を標榜しながらGHGプロトコルに近づけていく矛盾──第67回SSBJ審議が露呈した実務対応基準の構造的限界」において、実務対応基準の公開草案に内在する構造的な問題を指摘しました。それは、「二度手間の回避」を掲げる実務対応基準が、審議を重ねるほどGHGプロトコルとの差異調整に向かっていくという逆説です。
第67回審議では、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度(以下、「SHK制度」という)とGHGプロトコルとの間に存在する測定範囲・算定方法の差異について、複数の論点が「次回以降の委員会で詳細に検討する」と先送りとなりました。前々稿では、この先送りこそが実務対応基準案の本質を映し出していると述べました。なぜなら、それらの論点は、「二度手間の回避」という制度目的と、差異が残るにもかかわらず追加調整を求めないという結論との整合性に直結する問題だったからです。
その後に開催された第68回審議は、この問題について、ひとつの明確な方向性を打ち出します。すなわち、個別の差異について追加調整を求めない、という方向です。
SSBJ事務局は、SHK制度とGHGプロトコルの間に差異が存在することを認めました。そのうえで、それらを一つひとつ調整すれば、結局はGHGプロトコルに近づける作業となるため、「二度手間の回避」という制度趣旨から離れると整理しました。したがって、公開草案の提案どおり、SHK制度に基づく測定値を基本的にそのまま用いる方向で進めることが確認されたのです。
土台にある問い――SHK制度は「異なる方法」に該当するのか
審議プロセスの問題を論じる前に、実務対応基準案全体の正当性を支える根本的な前提を確認しておく必要があります。それは、SHK制度がIFRS S2第B12項及び第B13項(SSBJ気候基準第49項ただし書き)の定める「法域当局が要求する異なる方法」に該当するか否か、という問いです。
この該当性こそ、本稿が扱う審議上の論点のさらに土台に位置する問題です。筆者はこの点について、SSBJへのパブリックコメントとして意見を提出しています。第68回審議では、この点に関する方向性も示されました。ただし、その詳細については、最終的なコメント対応表が公表された段階で改めて検討することとします。
本稿では、あえて「SHK制度が当該要件に該当する」という前提を置きます。その前提に立つならば、SHK制度の方法を用いた場合に、スコープ1及びスコープ2についてGHGプロトコルとの差異が残り得ることは、IFRS S2の枠組み上、想定されていた状況といえます。したがって、追加調整を求めないこと自体を直ちに問題視するものではありません。
本稿が問うのは、その前提に立ったとしてもなお残る問題です。すなわち、第67回から第68回にかけての審議プロセスにおいて、「何を詳細に検討する」と説明され、実際には何が検討されたのかという説明責任の問題です。
「重い論点」はどのように軽くなったのか







