「会計士さん、今日はどうしたの?」
「ちょっとお知らせしたいことがありまして」
「えっ、うちの決算に何かあった?」
「いえ、そういう話ではありません。そうじゃなくて、少し先の話です」
「何か問題があった訳じゃないのね。で?」
「今、会計士が監査の意見を表明する監査報告書について、大きな改正が行われることになっています。『監査上の主要な検討事項』と言って、KAM (カム)と呼ばれるものです」
「あー、専門誌で見かけたことがあるよ、その言葉」
「今までの監査報告書では、定型文で適正かどうかの監査意見を述べていたのですが、これからは、それに追加して、監査でどこに着目したのかをフリーハンドで書くことになるのです」
「会計士さんたちも大変だね〜、いろいろやることが増えて。頑張ってね。あっ、他人事のように話しちゃ悪いか、ははは」
「いやいや、それが他人事じゃないんですよ」
「えっ、なんで? 監査報告書を書くのは、会計士さんでしょ?」
「確かに、書くのは我々の方なんですが、会社さんに協力してもらうことが大前提になっているんです」
「どういうこと?」
「3つくらい挙げると、1つ目は、KAM を書くにあたって、監査報告書で会社さんがまだ公表していない情報を書くのもなんなので、今までは公表していなかったようなものを適時開示で公表してもらったり、財務諸表などに開示してもらったりとお願いすることになるかもしれません」
「今のままだとダメなの?」
「ほら、前に海外子会社で起きたアノ件なんかも、金額的な影響がないから特に適時開示もしなければ訂正報告書も出していませんが、それを翌年度の会計監査でリスクと考えてKAMとした場合には、それを選んだ理由を書くことになります。まあ、どこまで記載するかの程度はありますが、アノ件に言及せざるを得ないケースも、もしかしたら出てくるかもしれないのです」
「そうなの?」
「そうなんです。で、2つ目は、KAM の記載内容について、協議する時間もとっていただく必要もあります。監査報告書に今までにない情報が掲載されるので、その内容に慎重にならざるを得ないでしょう。それは会計士サイドもそうですし、会社サイドも同じです」
「とすると、社長をはじめとして関係者が検討できる時間を確保しなきゃいけないね」
「はい、それが必要です。そして、3つ目は、KAMを通じて、会社さんが株主や投資家との対話を促すことが期待されているので、株主総会で状況を聞かれたり、アナリストから対応状況を確認されたりと、御社としても回答や対応が求められる局面が今以上に増えることも考えられるのです。まだ会社法には適用が必須とはなっていませんが、ゆくゆくはそうなると、決算スケジュールにも影響しかねませんし」
「おっと、それは総会担当の総務部やIR担当の企画室にも早く伝えておかないと」
「ざっと挙げても、御社に動いてもらわないといけないことが、さらには、対外的にも影響もありそうなことが、KAMを適用すると起こるんじゃないかと考えているのです」
「それ、もう少し詳しく教えてくれない?」
「そう思って、実は今、KAMの企業に与えるインパクトについて、企業の方を対象としたセミナーを開催しようと動いているところなんですよ!」
「おおっ、それは良かった! で、いつ?」
「12月14日の金曜日の午後を予定しています。詳しい情報は近い内にご案内できると思いますので、しばらくお待ちください。まずは、日程だけ確保していただければと」
「大丈夫。もう、手帳に書いたから」
P.S.
この会話はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
でも、2018年12月14日(金)午後にKAMセミナーを予定していることと、もうしばらくすると告知できるように進めていることは、事実です。いますぐ手帳に「KAMセミナー」と書き込んで、予定しておいてください。
P.P.S.
日本で始まるKAM制度について解説された本は、まだ、出ていません。諸外国の導入の経緯は、こちらが参考になります。
・井上善弘 (編著)『監査報告書の新展開 (日本監査研究学会リサーチ・シリーズ) 』(同文舘出版)
P.P.P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。