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ディズニーパリのCMが泣ける理由

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

今日の午前中、ものすごい光景を目撃しました。それはTBS系の情報バラエティー番組「王様のブランチ」を見ていたときのこと。ディズニーランド・パリのCM「The little duck」が紹介されたのです。

この映像は、アヒルの子どもがドナルドダックに夢中になっていく物語。その時間は、75秒。そんな短いストーリーであったにもかかわらず、映像が終わった後のスタジオでは、出演しているタレントさん達が泣いていたのです。たった75秒で心を動かし、かつ、涙まで流させたのです。これ、凄くないですか。

もしやと思い、本棚に向かって、映画の脚本術を解説している本を手に取りました。その本とは、『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』(フィルムアート社)。著者は、ハリウッドで最も成功した競売向け脚本家の一人と呼ばれる、ブレイク・スナイダー。

本書に示された「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」と名付けられた法則に従えば、売れる脚本が作れるというもの。どんなシーンを脚本の何ページ目に書くべきかが示されています。

で、このディズニーランド・パリのCMについて、この法則にどこまでマッチしているかを確かめてみました。すると、なんと、まさしく、この法則どおりの順番とタイミングで映像が作られていたのです。

最初のシーンで表現すべきは、オープニング・イメージ。CMでは、アヒルの家族が1列になって歩いている日常から始まります。

次のシーンで表現すべきは、テーマの提示。CMでは3.4秒のところで、主人公のアヒルは蝶が飛んでいることに気づきます。調べてみたところ、フランス語には“avoir des papillons dans le ventre”(お腹の中に蝶々がいる)という表現があるそうで。「恋愛でドキドキする」という意味で使うようです。このように、愛情やときめきで嬉しい気持ちを表現する「蝶」が登場することによって、ディズニーランド・パリが楽しい場所だいうCMのテーマが提示されています。

3番目のシーンで表現すべきは、セットアップ。CMの6.8秒のところで、その蝶が、ディズニー雑誌の上にとまります。続く4番目のシーンは、きっかけ。CMの8.2秒目で、ディズニー雑誌の表紙がアップになって登場するのが、ドナルドダック。主人公のアヒルがドナルドダックに夢中になっていくきっかけが、まさにこのタイミング。

5番目のシーンで表現すべきは、悩みのとき。主人公のアヒルはドナルドダックの雑誌を読み始めていきます。しかし、それは雑誌の中であって、現実のディズニーランド・パリには行けていないことを表現しています。

で、6番目のシーンで表現すべきは、第1ターニング・ポイント。ストーリーが大きく動き出すタイミング。CMでは17秒目に、雑誌の中のドナルドダックと同じポースを真似るアヒルが描かれています。そのポーズは、どこかに向かって今にも動き出しそう。この瞬間、少し時間が止まって象徴的なシーンになっています。

7番目のシーンで表現すべきは、サブプロット。これまでとは別の話に切り替わっていきます。CMの20.5秒目に、雑誌を布団代わりにして眠るほどに、ドナルドダックに夢中になっているアヒルの様子が映し出されます。

8番目のシーンは、お楽しみのとき。季節が移り変わっても、いつもこの雑誌を夢中になって読んでいる様子が描かれています。しかし、その後半では、親鳥から旅立ちを促されます。主人公のアヒルはこの雑誌から離れたくないため、口でつかみながら飛び立とうとする。

しかし、その重さに耐えられず、雑誌を落としてしまう。落ちた先は、川の中。水に浸って雑誌が沈んでいきます。これがちょうど9番目のシーンとして描くべき、ミッドポイント。CMでは37.5秒目。お楽しみのときは、もう終わり。ここから危険が増していく合図になります。

10番目のシーンとして表現すべきは、迫りくる悪い奴ら。37.5秒から51.1秒までの間、アヒルの一族が、雨風の激しい中で空を飛んでいき、これまでとは違う場所へと移動していく様子が描かれます。画面の暗さが、アヒルの気持ちの沈み具合を表現しています。

11番目のシーンで表現するのは、すべてを失う様子。CMの51.1秒目には、激しい雨風が過ぎ去った後として、晴れた朝の中でアヒルが目を覚まします。

12番目のシーンで表現すべきは、心の暗闇。CMの51.1秒目から、主人公のアヒルは、ドナルドダックの雑誌を失って心が落ち込んだまま、フラフラと歩き始める。やがて、アヒルの足元に長い影が伸びてきます。その影の先に目を移すと、アヒルは晴れ晴れとした表情へと変わっていきます。それが13番目のシーンである、第2ターニング・ポイント。CMの58秒目がそれ。

14番目のシーンで表現するのは、フィナーレ。主人公のアヒルから画面がチェンジして映し出されたのは、ドナルドダック。そう、目の前にドナルドダックが立っていたのです。アヒルは喜び走ってドナルドダックの足元に抱きます。一緒にいたアヒルの家族もドナルドダックに寄って行きます。カメラは引きの画となり、シンデレラ城がその奥にそびえ立つ。そう、たどり着いたのは、ディズニーランド・パリ。

最後の15番目のシーンで表現するのは、ファイナル・イメージ。シンデレラ城から青空へとカメラは上に向き、ディズニーランド・パリのロゴが浮かび上がる。こうして75秒のCMは終了。

このように分析してみると、このCMは売れる脚本の法則に忠実に沿っています。「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」が必要とするシーンが、必要とするタイミングで描かれているのです。だからこそ、たった75秒であっても、見ていた人の心を動かし、さらには涙まで流させることができたのですね。

このCMから学べることは、ビジネスでもキャリアでも、成功法則に基づけば、成功しやすくなるということ。独自でやっても成功することがありますが、その確率が低くなるか、時間がかかるかのいずれか。せっかく数多くの実体験に基づき、再現性のある形で成功法則がまとめられているのなら、これを利用しない手はありません。だからこそ、ボクらは常に学び続けるのです。

あなたはこの週末、何を学びますか。

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