経営者は、孤独。そう言われることがあります。組織のトップとして最終的な決断を迫られる局面で、誰にも相談できないことがあるため。この辛さを理解してもらえないことから、「孤独」だと呼ばれるのです。
そういう意味では、経営者だけではなく、起業家の方も、独立して仕事をしている人も、ご自身で決断すべき立場なら同じこと。皆、ビジネスにおいて孤独な状態に置かれています。
決断をするときに大事なのは、メンタルが安定していること。感情的になるのは論外として、心がくじけているときに大きな判断を迫られるのは、心身ともにきつい。メンタルを一定に保ったり、あるいは、落ち込んだときに奮い立たせたりと、コントロールできるのが望まれます。
しかし、経営者をはじめとしたビジネスパーソンで、メンタルのサポートを受けている人はまだまだ少ないかと。業務に必要なアドバイザーは確保していても、自身のメンタルをフォローしてくれる専門家を活用することが、この日本では普及しているとは言い難い。
一方、スポーツの世界に目を向けると、メンタル専門のコーチをつけることが珍しくない。その代表が、テニス。テニスのメンタルコーチで最近、話題となったのが、サーシャ・バイン氏。2018年シーズンに大坂なおみサンのコーチに就任すると、世界ランキング68位だったところ、翌年には世界ランキング1位にまで持っていきましたね。
そんなサーシャが、2019年7月、メンタルコーチに関する本を出しました。そのタイトルは、『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(飛鳥新社)。なんでも、日本人のために特別に書き下ろしたとのこと。
ボクは、「メンタル・コンフリクト・キャンバス」というツールを開発しているとおり、ビジネスやキャリアでメンタルにどう向き合っていくかをサポートすることを標榜しています。なので、この本を読まない理由はありません。
で、ページをめくると、ビジネスに活用できる話が盛りだくさん。その中でも、ボクは次の3点に着目しました。
1つ目は、そもそも、すべてがうまくいく訳じゃないこと。売上は常に右肩上がりにすべきだとプレッシャーを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、顧客の都合もあれば、ビジネス環境の都合もある。あるいは、こちら側の都合もあるでしょう。すると、右肩上がりどころか、一定であることも保証はない。つまり、ビジネスには波があって当然なんです。
ここに囚われていると、孤独感が増していきます。サーシャは、この本の中で、失敗することも悪いことじゃないとも説きます。そんなメンタルだと、随分とビジネスへの向き合い方が変わるハズ。
2つ目は、結果を気にしないこと。事業計画どおりの結果を残すのが経営者の責任だと考えている場合もあります。
ところが、メンタルコーチング的には、結果にとらわれることで、そのことへの楽しみが失われてしまうと言います。つまり、目標としている売上高や利益という結果に囚われていると、ビジネスを行うことが苦しくなってくると言います。
なので、サーシャは、結果よりもプロセスを楽しむように促します。誰かの役に立つためにビジネスを行っているのに、そのビジネスを行うことが辛くなると本末転倒ですからね。
3つ目は、望む状態をありありと思い描くこと。すると、プロセスを楽しむようになれると言います。
結果は気にしませんが、どうなっていたいか、その状態についてはビジュアライズすることが良い。これは、脳機能としても知られていること。詳細に具体的にイメージすればするほど、脳はそちらを選ぶために、実現しやすくなるのです。
ただ、サーシャは、それでも飽きがくることもあると指摘します。確かに、好きなこと、目指すことをしていながらも、実際には気がのらない、飽きてくるケースもあります。それはビジュアライズが弱いのかもしれませんが、そうは言っても現実にはそんなケースも十分に起こりえます。
メンタルコーチング的には、飽きることがあると前もって理解しておくことが良いと言います。こうして心の準備をしておくのです。
あるいは、環境を変えてみることも勧めています。仕事をする場所を変えたり、デスクや椅子の配置を変えたりとすることで、気分が新鮮になることが期待されます。
ね、ビジネスの場でも、メンタルコーチングは使えるでしょ。日本の経営者たちがメンタルコーチをつけることが今よりも普及したなら、ビジネス界の大坂なおみが登場するかも。そう考えると、楽しみじゃありませんか。