今日は、昨日とは別のバイオテク企業に関する本を読みました。その企業は、昨日のブログで取り上げたアムジェンという会社が設立された1980年に株式公開を果たしたジェネンテック。設立が1976年であったり、バイオテク企業の初IPO銘柄であったりと、バイオベンチャー企業のパイオニアと呼ばれています。
両社のIPOを巡る状況は、かなり違います。1983年に株式公開をしたアムジェンは、公募価格が18ドルのところ、公開日の終値が16.75ドルと下落。調達金額の4,230万ドルは、当時の業界第3位だったといいます。
一方、ジェネンテックは、調達価格は3,600万ドルのため、アムジェンよりも手にした金額は少ない。ただ、株価は反対の動きを示します。公募価格が35ドルのところ、取引開始の1分後には80ドルに急騰。20分でピークの89ドルを迎えます。終値は71ドルといいます。
ただ、その後の財政が厳しくなったことから、IPOしてから10年後の1990年にはホフマン・ラ・ロシュに株式の60%を買ってもらって救済されます。さらに、2009年には残りの40%も取得されて、完全子会社となりました。
こうしたジェネンテックの起業からIPOまでの過程が記された本が、『ジェネンテック 遺伝子工学企業の先駆者』(一灯舎)。著者は、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館の科学史家であるサリー・スミス・ヒューズ氏です。
今回、この本を起業という観点から読んでみました。ひとつ浮かび上がったのは、ビジネスモデルの一要素である「キーパートナー」。誰と組むか、という点が忘れられがちではあるものの、その重要性を教えてくれます。
ジェネンテックを設立する前のこと。創業者のひとりとなるハーバード・ボイヤー氏は、スタンリー・ノーマン・コーエン氏から研究学会に招待されます。ホノルルで開催された学会で、ボイヤー氏が自身の研究を聴いたコーエン氏は、二人でならDNA分子を結合してクローニングする方法を開発できると考えます。学会の後、ワイキキビーチのデリカデッセンでサンドイッチとビールを食べながら話し合ったアイデアに、二人は意気投合。共同研究を行うことになります。
ここに、キーパートナーとの出会いの大事なポイントを2つ、読み取りました。一見、偶然のような出会いのように受け取ることができます。注意していないと、たまたま研究学会で出会った二人だと話を片付けることでしょう。
しかし、二人とも研究をコツコツと積み重ねていた点が大事。これが、1つ目のポイント。
まだ芽が出ていない研究であっても、思い描いたビジョンに向けて地道に着実に成果を積み上げていたのです。だからこそ、ヒントとなるものが目の前に現れたときに、すぐに飛びつくことができた。
反対に、何も積み上げていない状態だと、目の前に現れたヒントに気づくことすらできない。また、お声もかかることもないでしょう。自ら何かを持っている状態を作っておく必要があります。そうでなければ、搾取するだけですからね。
また、出会いの大事なポイントは、もうひとつあります。それは、認知される場所に自身を置きに行くこと。いくら地道に積み上げていても、それが知られることがなければ、化学反応は起きません。
この二人の場合、研究学会を積極的に利用していたこと。一人は自身の研究に関連する場を催し、もう一人はそれに参加する。ヒントとなりそうな場を上手に活用していたのです。
これは、ボクの反省でもあります。先日、知人にボクのアイデアを話していたときに、「それを欲しがる人は誰なの?」と聞かれ、「●●の人かな」と返答すると、次のように質問されたのです。
「その●●の人はどこにいるの?」
知人は、認知されるための努力を怠っているんじゃないかと、ボクをたしなめたのです。もう十分に積み上げているのだから、認知されるフェーズに進めと伝えたいのだと。この質問にはハッとさせられました。
ある段階になると、次のステップに進むためには、認知されるための行動や出来事が必要になります。これは、一人で何とかできるものではない。誰かの協力が必要です。ビジネスモデルの要素のひとつである、キーパートナーが欠かせません。
すると、どこかのタイミングでキーパートナーを主体的に探しに行かなければなりません。それは、何をするために必要な人かもしれませんし、自分を引き上げてくれる人かもしれません。そんなキーパートナーに、進んで接触していく必要があるのです。
ちなみに、ジェネンテックの設立には、ボイヤー氏だけではなく、もうひとり、実務家がいます。ベンチャー投資家をしていたロバート・スワンソン氏です。ボイヤー氏から見れば、スワンソン氏は、キーパートナーに他なりません。
ボイヤー氏がスワンソン氏と一緒にジェネンテックを設立するには、実は、コーエン氏が絡んでいるのです。キーパートナーがキーパートナーを引き寄せた感じです。このように、キーパートナーを軸に読むと、別の面白さが味わえますよ。