2桁以上の数字は半角とする一方で、1桁の数字は全角でしょうか、それとも半角にするでしょうか。「1億23百万円」と表記するときの「1」が、全角か、半角かという話。
ビジネス文書でも、決算短信や有価証券報告書などの財務報告の文書でも、このルールを巡って、「全角派」と「半角派」の2つに分かれます。
結論から言うと、今の時代、全角にこだわる必要はない。
かつては全角派に理由はあったものの、今となっては半角派のほうが自然。これを理解するには、フォントの変遷を知らなければなりません。それを知らない限り、過去からの踏襲だけを根拠として、全角派にしがみついてしまうから。
◎ フォントの変遷
文字や数字を表記するためのフォントは、大きく「等幅フォント」と「プロポーショナルフォント」とに区分できます。等幅フォントは、文字や数字の幅が等しいもの。これに対して、プロポーショナルフォントは、その幅が等しくはないもの。
この話は、日本語で考えるとあまりピンと来ません。よって、アルファベットで考えるのが良い。
例えば、「i」(アイ)や「l」(エル)は文字の幅が小さいため、他の文字と並べたときに左右のスペースが空いてしまいます。反対に、「m」(エム)や「w」(ダブリュ)は文字の幅が大きいため、左右のスペースが少なくて詰まった印象を与えます。
そこで、文字を何の処理をしなくても、文字の間のスペースが気にならないように文字の幅を調整したものが、プロポーショナルフォント。フォント名に「P」の文字が入っているものが、それ。「MS 明朝」だと等幅フォントであるのに対して、「MS P明朝」はプロポーショナルフォント。
かつて、コンピュータで文字や数字を処理するにあたって、技術的な限界によって、どれも同じ幅でしか扱うしかできませんでした。ワープロを使って財務報告の文書を作成する場合にも、冒頭の「1億23百万円」のように、数字が1桁のことがあります。
◎ 全角派から半角派へのシフト
特に文章の中で、この1桁を半角で表記すると、半角分のスペースが生まれ、また、その行は半角分だけ見た目のバランスも悪くなる。そこで、数字が1桁のときには全角とする作法が生まれました。これが「全角派」。
しかし、その後のコンピュータでの処理能力が高まっています。プロポーショナルフォントで表記することに何の問題も生じない。すると、技術的な限界がなくなった今となっては、「全角派」である必要はない。
プロポーショナルフォントを使用している限り、自然な表記に見える「半角派」のほうに軍配が上がります。
こうした技術の進展や数字1桁を全角にしていた背景を知らないと、今でも「全角派」こそが正しい流儀と思い込んでしまう。なので、昔から有価証券報告書のチェックをしていると、1桁の数字を見つけたときに「これは全角にしなければならない」と息巻く会計士や経理担当者がいるのです。
◎ 半角派の上場企業も存在
理屈だけではなく、事例においても半角派は存在しています。有価証券報告書を見ていても、数字が1桁でも半角として表記している上場企業が少なくありません。2020年にもなって全角派であり続ける理由はない。
中には、数字が1桁のときに全角にしたほうが見やすいと主張するかもしれません。それは、慣れの話。全角による表記に親しんでいるために、それが良いと考えているだけ。印象に過ぎない。
ちょっと観点を変えると、同じ数字が全角で表記したり半角で表記したりと混在しているほうが不自然ですよね。それでも、まだ、全角派にこだわりますか?