こんにちは、KAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)が早期適用された事例には、金融業に属する企業もあります。銀行だったり、証券だったり、保険だったりと。
金融業はそもそも会計が特殊です。毎年、JICPAとASBJが編集している「会計監査六法」も、銀行・信用金庫・保険・証券といった業種だけに特化した「金融会計監査六法」を発行しているほど、別世界。監査法人にも金融部門が独立していますし。
なので、ボクは、こうした業界で報告されるKAMは、製造業やその他の業種の企業にとって参考になることはないだろうと、勝手に思い込んでいました。特殊な会計を取り上げたKAMを理解することすら難しいのだろうと。しかし、、、
実は参考になる金融業のKAM
2020年9月から、金融業のKAMに真正面から取り組むと、大きな勘違いであったことに気づきます。もっと早くから、金融業のKAMを読み込めばよかったと後悔すら覚えました。
確かに、KAMとして取り上げられた会計の項目は、業界特有のものも含まれています。「なんか聞いたことのある言葉だ」や、「なんだ、その論点って?」と感じるものも少なくありません。
しかし、だからと言って、理解できないワケではない。馴染みのない業界や論点であっても、書き手の工夫によって、いくらでもわかりやすくなるからです。まるで、サイエンス・ライターのサイモン・シン氏による『暗号解読』や『フェルマーの最終定理』などが、極めて専門的な内容を扱っているにもかかわらず、興味深く読み進めていくことができるように。
そうそう、かの数学者ピエール・ド・フェルマー氏は、次の言葉を残したことで有名ですね。
私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない
KAMの激戦区
話を戻すと、金融という特殊な業種であるがゆえに、監査人がKAMの記載にあたって、より伝わりやすさを追求したのかもしれません。そうではない業種と比べて、わかりやすさを一層強く配慮した可能性があります。
KAMの内容及び決定理由の記載について、企業の開示を単に引用・要約した文章で占めるのではなく、監査人のオリジナルの文章によって構成されたものが目立ちます。しかも、読み手が理解しやすいように工夫されています。
そういう意味では、金融業という括りでKAMを見比べたときに、他の業種以上に記載の仕方の違いが目立っているといえます。KAMの激戦区といっても過言ではありません。
第3章の解説はこれだ
KAMの激戦区である金融業のKAMについても解説しているのが、2021年2月に発売予定の『事例からみるKAMのポイントと実務解説: 有価証券報告書の記載を充実させる取り組み』(同文舘出版)です。第3章「金融・保険業におけるKAM」では、2020年3月期の上場企業で早期適用されたKAMのうち金融業の事例について、ひとつひとつ説明しています。
そこでは、13社、実質的に報告されたといえる36のKAMに対して、41 の解説を行っています。例えば、こんな解説です。
- 企業の開示と記載の一致率が高いKAMは本当に意味がないのか
- 監査に固有の情報を報告するためのヒント
- 見積りの不確実性に言及している記述情報の優良事例
- KAMに記載された未公表の財務数値との付き合い方
- KAMと記述情報における外形的に重要な論点
- 会社法上の監査報告書に記載された最初の事例
- KAMと記述情報とが同じ項目の中に違いを探る
- KAMの改善が期待される点
- KAMの評価に値する点
- KAM決定の考慮事項は3項目に限らない
- 連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAMがひとつであることの意味
- 監査上の重要な事項を注意喚起する一文
- 書き分けの好事例
- 検討の状況や重要な仮定をKAMで示す
また、次のような観点から切り込んでもいます。
- 書き手の前提が読み手に共有されないリスク
- 会計上の見積りに関する重要な仮定の掘り下げ
- KAMの見出しの付け方
- KAMの参照先の取扱いについて制度改正の余地あり
- 会計上の見積りに関する重要な仮定を構成要素まで掘り下げた事例
- 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に活用できる注記事例
- KAMの報告の充実は企業の開示の充実なしには困難なのか
- 企業の開示をKAMと同様のレベル感で記載する意義
- KAMの「監査上の対応」の記載方法
- 接続詞の使い方と参照先の示し方
- 繰延税金資産の回収可能性に関する充実した企業の開示
- KAMの記載における省略のあり方
- KAMの文章のわかりやすさ、わかりにくさ
この他、一般的なKAMの解説では言及されない、でも、実務的な話もしています。
- 不用意に2つの意味を生み出すライティング
- 重要な会計上の見積りに関する記述情報の記載の要否
- ITシステムに関するKAMの報告の特徴
- 来期も同じKAMが報告される場合の実務上の工夫
- ITシステムの障害とKAMの関係
- システム投資で忘れがちな会計上の論点
- KAM決定理由で珍しかった「通例ではない取引」
- リスクはなくても相対的に最も重要な監査領域
- 海外の会計基準の簡潔な説明があるKAM
- 特殊な項目を扱っているのにKAMがわかりやすい
- 保険業を知らない人でも理解できるKAM
- 記載パターンがあると読み手は内容を予測できる
- 事例の取扱いには十分な留意が必要
- 個別財務諸表における会計方針を注意喚起した可能性
このように、金融業のKAMについて驚くべき解説を行っているが、余白が狭すぎるので見出ししか記すことはできない。
そのため、解説のひとつひとつを本書でご確認ください。ただし、書店は多くの書籍を扱っていますが、本書のテーマがニッチすぎるので在庫を抱えている保証はできません。今すぐ予約をして、感動のKAMノンフィクションをお楽しみください。
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P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。