2021年も、気づけばもう12月。早いものですね。今年を振り返ってみると、企業にとっての重大ニュースのひとつが、コーポレートガバナンス・コードの改訂。
2021年6月11日付けで、コーポレートガバナンス・コードが改訂されました。この改訂を踏まえて更新したコーポレートガバナンス報告書は、遅くとも2021年12月末日までに提出することが求められています。すでに開示した企業もあれば、12月の提出を予定している企業もあります。
その対応は、総務や経営企画といった部署が担っていることが多いでしょう。そのため、経理関係者にとっては縁が遠いものかもしれません。それは、監査法人にいる会計士も然り。
ただ、コーポレートガバナンス・コード対応の現場に立っていると、有価証券報告書の記述情報とも関係が深いことが身に染みて理解できます。「ああ、こういうことを有報に盛り込まないといけないんだ」とか、「コーポレートガバナンス・コードを踏まえると、これは書くとマズイ」とか。
なので、有価証券報告書の作成に関わる人は、改訂されたコーポレートガバナンス・コードを理解することを強く、強くオススメします。
しかし。
コーポレートガバナンス・コードは、とにかくボリューミー。「基本原則」が5つだからといって安心してはいけません。基本原則を実現するための「原則」が31もあります。また、ベスト・プラクティスを示した「補充原則」は47もあります。今回の改訂で、グロース市場を選択する企業以外は、「原則」と「補充原則」も含めた検討に迫られました。
では、改訂されたコーポレートガバナンス・コードを読もうとしても、目的がなければ、ワクワクドキドキするような読み物ではないため、ちと、きつい。解説本もありますが、表層だけのものから、極めて実務に役立つものまで幅広い。選択眼が必要になります。
そこで、ご提案。ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」をご覧になってはいかがでしょうか。2020年に韓国のケーブルテレビで放映されて人気となったもの。現在、Netflixで視聴できます。
信念を貫く主人公の生き方を描くストーリーが面白いのはもちろんのこと、コーポレートガバナンス・コードの教科書なんじゃないかと錯覚するほどに、各種コードに関連したシーンが盛り沢山なんです。
例えば、主人公がしかける買収に対して、飲食チェーンのオーナーが採る身勝手な振る舞いは【原則1-5】の買収防衛策の意義を感じさせるし、そのオーナーが体調を壊したときには【補充原則4-1③】の後継者計画の重要性を思い出させるし、その企業に主人公の右腕の女性を取締役候補として送り込むときの理由は【原則4-11】の取締役会の多様性や【補充原則4-11①】の取締役会が備えるべきスキル等の特定だし。
中でも注目すべきは、主人公が経営する飲食店のメンバー。お店を立ち上げたばかりの頃から、マネージャーはさきほどの女性で、外国人を雇い、キッチン担当は飲食店の経験がなくても料理の腕で決めたトランスジェンダーなど。この辺りも、中核人材の登用の多様性を求める【補充原則2-4①】そのもの。こんな風に、コーポレートガバナンス・コードという観点からも、非常に学びの多いドラマなんです。
そうそう、【補充原則2-4①】では、(1)中核人材の登用等における多様性の確保についての「考え方」と、②自主的かつ測定可能な「目標」を示すとともに、(3)その状況を「開示」すべきことが示されています。その例として、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用が挙げられています。
ここで「女性」という括りが、ジェンダーレスの観点からは、どうにもピンと来ない。「女性の管理職への登用」について実績を示す場合には、必ず従業員を男性と女性の2つに区分しなければならないから。
もちろん、男性だけが牛耳っている状況を解消したいのは理解できます。だからといって、「女性の管理職への登用」について実績を開示すると、男性か女性かに区分しなければならない。もっとも、サステナビリティの世界では、「その他」という区分を設けることもありますが、それだって、区分することには変わりない。
多様性を確保することが目的のため、「女性の管理職への登用」の例示は不要だったんじゃないでしょうか。日本企業が全体として女性の活躍の場を提供していないためか、それとも、コード設定者の思考が男性と女性の2区分に囚われているためかわかりませんが、この例示がかえって問題を生むことがあります。
だったら、自社のジェンダーレスの取り組みに関する従業員アンケートの結果のほうが良い。「ジェンダーレスを阻害する状況に遭遇したことがあるか」など。まあ、そんなことも含めて、コンプライか、エクスプレインかを求めていると捉えるしかありません。
ドラマ「梨泰院クラス」の主人公であるパク・セロイなら、きっと、こう言うハズ。「信念をもって開示しろ」と。