KAM(監査上の主要な検討事項)について、いろいろと研究や分析をしている中で、唯一、ピンと来ない論点があります。その論点が言及されるたびに、「一体、どういうものを想定しているんだろう」と不思議に感じます。それは、次の2点の記載。
- 監査人による手続の結果に関連する記述(An indication of the outcome of the auditor’s procedures)
- 当該事項に関する主要な見解(Key observations with respect to the matter)
そんな不思議感が、つい、最近も蘇りました。というのも、2022年3月4日に、金融庁から「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」が公表されたため。その中で、この論点が登場していたのです。
ボクが、この論点にピンと来ていないのには、理由があります。特に日本では、KAM以外で対応すべきものがあるようにも感じています。そこで今日は、この論点について考えていることをシェアしたいと思います。
金融庁による「KAMに関する勉強会」
金融庁のウェブサイトによると、KAMのさらなる実務の定着と浸透を図るため、関係者を集めた「KAMに関する勉強会」が開催されていたようです。そのメンバーは、アナリストや企業の方、JICPAや研究者など。また、大手監査法人などの関係者も招きながら、望ましいKAMの記載や、現状の課題等について意見交換を行っていたとのこと。
その勉強会で議論していた内容を取りまとめたものが、今回、公表された「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」です。収録されている内容は、勉強会メンバーの主なコメント、傾向分析、特徴的な事例、検討が必要と考えられる事例の4点です。
このうち、勉強会メンバーの主なコメントで、KAMの記載内容に関するものに、次のものがありました。
•監査上の対応については、もう一歩踏み込んだ記載があっても良いと考える。特に、手続の結果(Outcome)や監査人の見解(Findings、Observation)に関する記載は、利用者の意思決定にとっても有用な情報であり、海外のネットワーク・ファームでは記載しているケースもあることから、我が国において抑制的に記載しないのではなく、是非記載して欲しい 。
そう、例の論点です。依然として、この記載を求める声があるのです。しかし、どうにもピンと来ない。英国のKAM事例をみてきた経験から、そう思うのです。
ワタクシ、すでに事例を調べておりました
実は、この分析結果について披露しかけたことがあります。それは、「旬刊経理情報2022年2月20日号(No.1636)」の特別企画「英国事例から学ぶ 適用2年目以降のKAM対応の留意点」を執筆したときのこと。
この執筆にあたって、当初、「KAMの適用2年目以降は、手続の結果や監査人の見解についても記載することも検討の余地がありますよ」的な内容についても含めようと考えていました。例の論点を求める声があることも、また、英国のKAM事例にもその記載があることも知っていましたからね。
そんな方向で執筆することを想定していたため、事例を分析したうえで、「こういうことを書くんだよ」と伝える内容も記事に盛り込むつもりだったのです。それが、日本のKAM実務に役立つはずだと、そのときは考えていました。
しかし、その論点を含めない判断をしました。
記事に含めなかった、たったひとつの理由
例の論点を記事に含めなかった理由は、極めてシンプル。大したことが書かれていなかったから。
数行かけて記載しているものでも、突き詰めると、大したことは書いていないのです。それを知ったため、あえて記事にする必要がないと判断しました。もっとも、それを含める余地がないほどに、書く内容があったことも理由のひとつ。
さきほどの勉強会からは、「海外のネットワーク・ファームでは記載しているケースもある」とコメントされていました。しかし、その海外のネットワーク・ファームによる例の論点の記載が大したことがないのです。
そんな実態を知っているので、例の論点が浮上するたびに、「あの程度の記載が欲しいのかな」と不思議に思わざるを得ないのです。「あの程度の記載なら、なくても同じでしょ」とも。
期待している記載を具体的に教えてほしい
確かに、例の論点を記載した事例の中には、稀に検出事項を説明したものがあります。例えば、内部統制の不備に関するものです。それが事業活動に大きな影響を与えておらず、また、監査意見としても無限定適正意見が出ないほどにもなっていません。
もちろん、KAMを読む中で、「で、これ、どうなったの」と手続の結果や監査人の見解を知りたいと思うものがあるのも事実です。一方で、無限定適正意見が表明されているため、「あっ、大した話にはなっていないんだな」と理解することができます。
ホラ、財務諸表項目の数値に影響する場合、それが限定事項となると、監査報告書に必ず詳述されます。無限定適正意見が表明されている中で、そこまでに至らないような検出事項まで、果たして財務諸表の利用者は知りたいのでしょうか。そんな財務諸表を利用するにあたって支障がない事項を知ったからといって、その情報をどう投資行動に活用するかがピンと来ないのです。
また、日本では内部統制報告制度があるため、開示すべき重要な不備なら、財務諸表の利用者もそれを知ることができます。もし、そうではない不備まで知ることが有用であるのなら、内部統制報告制度そのものの見直しを求める話にもなりかねません。
なので、「手続の結果」や「監査人の見解」に関する記載として何を期待しているかを明確に伝えてほしい。海外のネットワーク・ファームが記載していると話すだけではなく、財務諸表の利用者が役に立ったと感じた事例を具体的に提示してほしいのです。
お互いの認識が共有されれば、監査人側も実務対応が図れます。おや、いつもボクがKAM分析で話しているような内容になってきた。やっぱり、認識の共有が大事ですね。
P.S.
需要があれば、この話、ちゃんと記事にしようかしら。こうしてザクッと書いても2,000字超えなので、もっと丁寧にし、事例も紹介し、分析結果もまとめると、良い感じのボリュームになりそう。
P.P.S.
今回の「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」で取り上げれた事例やポイントは、1年前の2021年2月に発売した拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』と同じものが含まれていますね。この本を片手に勉強会が開催されていたと勝手に妄想すると、嬉しくなります。