簿記を学んでいくうえで、乗り越えるべきヤマ場。そのひとつに挙げられるものは、棚卸資産の決算調整の仕訳です。いわゆる「3分法」に基づき、「仕入」勘定と「繰越商品」勘定を使うコレ。
期首在庫 :(借)仕入 xxx (貸)繰越商品 xxx
期末在庫 :(借)繰越商品 xxx (貸)仕入 xxx
検定試験や期末テストで必ずと言っていいほど登場する論点のため、これを捨てるなんてことは、ア・リ・エ・ナ・イ。何としても確実に得点源としたいところ。
ただ、この仕訳って、期末の在庫計上と翌期の振戻しの仕訳で右と左を反対にするだけのものだから、間違えやすい。「しいれ、くりしょー、くりしょー、しいれ」と正確に再現できればよいのだけれど、普通に暗記していては、「仕入」と「繰越商品」がひっくり返る可能性があります。
もちろん、仕訳の意味を理解すれば間違えることはないものの、初めて学ぶときには、理解に時間を要することがあります。当時のボクも、そのひとりでした。
とはいえ、それを理解するまで授業が止まるワケではない。どんどん次の内容に進んでいく。その間に行う問題演習では、やはり、仕訳の右と左を間違えてしまう。理解が追いつかない。さて、どうしたものか。
■1990年代の暗記法
そこで、ボクが採った方法は、棚卸資産の決算調整の仕訳を丸暗記すること。しかも、左右の科目を決して間違えることなく、確実に再現できる暗記。それは、歌に乗せて覚えることでした。
その歌は、田原俊彦サンの『ジャングルJungle』。1990年にリリースされた歌です。作詞は松井五郎サン、作曲は羽田一郎サン。この歌に、こんな歌い方をする箇所があります。
きみと、じゃーんごー、じゃんごー、じゃーんごー
このフレーズに、こんな言葉を乗せるのです。
しいれ、くりーぃしょー、くりしょー、しぃーいっれー
ね、これで、一発で覚えられました。それ以降、この仕訳で間違ったことはありません。今でもこの仕訳のときには、ボクの頭の中で、このフレーズが流れています。ここだけの話。
■本気の調査
ちょうど今、大学で簿記論を教えており、また、この棚卸資産の決算調整の仕訳を説明するコマがありました。図や言葉を使って理屈で教えようとしたり、語呂合わせや韻を踏んだ覚え方も作ったりと工夫しました。
いくら工夫したところで、授業で聞いて一発で覚えられるかといえば、心もとない。こうなったら、あのときのように、歌に乗せて覚える方法を伝授するしかない。ボクの成功体験が頭をよぎります。
しかし、あの歌は、ボクが10代の頃にリリースされたもの。今の学生には、初耳の楽曲です。すると、歌を覚えるところから始めなければならない。それでは、意味がありません。
で、調べましたよ、今、流行っている歌を。目を通したのは、カラオケ・ランキング。ホラ、耳にしている楽曲よりも、実際に歌っている楽曲のほうが覚えやすいでしょ。
ランキングには、新旧の歌が並んでいます。「この歌なら、今の学生の耳に馴染んでいる」と選んではみるものの、なかなか、しっくりと来る楽曲を見つけることができません。何曲も何曲も脳内で再生しながら、あのフレーズがきれいに乗る歌を探しました。
■2020年代の暗記法
すると、見つかりましたよ、ぴったりの歌が。しかも、今の学生なら、必ず知っていると期待できる歌。
その歌は、優里サンの『ドライフラワー』。作詞と作曲もご本人によるもの。サビを歌うと、こんな感じ。
こーえもー、かーおもー
ぶーきよーな、とーこもー
わかりましたか。ここに、あのフレーズがきれいにハマるのです。ボクは、こう歌います。
しーいれー、くーりしょー
くーりしょーお、しーいれー
ね、ぴったりでしょ。メロディと歌詞のハマり具合から、仕入と繰越商品を反対にして覚えることもない。これで、棚卸資産の決算調整仕訳を間違えることはありません。
ということで、この覚え方を授業で披露しました。当初は、実際に全力で歌おうと思っていたのですが、、、さすがに教壇のうえでは歌えず。あの場ではキビシイですね、やっぱり。鼻歌程度で済ませてしまいました。
というワケで、この論点でお悩みのときには、優里サンの『ドライフラワー』で乗り越えてください。