企業の開示関係者にとって悩ましい課題といえば、気候変動と人的資本。
上場企業がこれらに向き合わざるを得なくなったきっかけは、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード。これらの取組みを行っているならコーポレートガバナンス報告書などで開示を、また、開示しないなら説明を求められたことは記憶に新しいでしょう。
これらの開示に拍車をかけたのが、2022年6月に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」。その中で、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を設けたうえで、これらを開示することが提言されました。その方向で開示府令が改正されていくことでしょう。
もしも、有価証券報告書の作成主体が経理部門である場合、これらの開示に対応していくには担当部門の協力が欠かせません。もちろん、これまでも経理関連ではない記載箇所については、他の部門に原稿の作成を依頼していたでしょう。その点は変わりません。
しかし、各部門の原稿を合算すれば、有価証券報告書が作成できるかといえば、それは別の話。注意しなければ、それぞれの原稿が異なる方向の内容で作成されてしまうから。企業が発信する情報として、ひとつの方向性に揃っている必要があるのは当然のこと。
よって、企業グループとして俯瞰した視点から、各部門の原稿の整合性をチェックできなければなりません。つまり、企業グループの財務報告として適切かどうかを判断できる組織が欠かせません。
ボクは、このような体制のことを「全社一丸財務報告」と呼んでいます。一部の部門だけで有価証券報告書を作成するのではなく、関係するあらゆる部門やグループ企業が作成に関わる体制です。サステナビリティ情報の開示からも明らかなように、もはや「全社一丸財務報告」にならざるを得ないのです。
そのための具体論が、「ディスクロージャー委員会」の活用です。「全社一丸財務報告」の最適解だと考えています。このディスクロージャー委員会は、後発事象への対応としても有益です。それを『後発事象の会計・開示実務』の第7章で端的にまとめています。それは、次のような構成です。
1.後発事象の対応体制に必要な3つの要素
(1) 常に必要となる後発事象の対応とは
(2) 検討事象の網羅性
(3) 時間的な網羅性
(4) 文書化
2.後発事象の対応が困難となる2つの壁
(1) 経理部門が一次情報にアクセス困難な理由
(2) 組織における2つの壁
(3) アクセスできない経理部門、アクセスできる監査人
3.ディスクロージャー委員会による後発事象の対応
(1) CFOが主体となる方法の限界
(2) ディスクロージャー委員会を活用する方法
(3) ディスクロージャー委員会の内容
(4) 上場企業における導入実績
このディスクロージャー委員会の活用は、前著『後発事象の実務』から一貫したメッセージ。後発事象のセミナーや他の書籍でも説明しています。最適解でありながらも、まだまだ活用例が少ないため、何度も繰り返して発信しているのです。
何も、後発事象だけに有効な対応ではありません。その本質は、然るべき情報が企業グループ内をより良く流れるための仕組みづくり。そのため、気候変動や人的資本といったサステナビリティ情報についても、企業グループとして整合的な開示には効果的だと考えています。
これらの制度開示が予想される中、早めに開示体制を整えるためのきっかけとして、『後発事象の会計・開示実務』の第7章をご覧になられてはいかがでしょうか。