Accounting

とにかく「時点」にこだわった後発事象セミナー

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

いや~、楽しかったですね。2024年2月26日に、一般財団法人産業経理協会さんに主催いただいたセミナー「後発事象をめぐる実務上の諸問題の検討」についてです。

このセミナーの内容は、いつものように開示後発事象の注記の作り方がメインではありません。そうではなく、後発事象の「時点」に焦点を当てました。ただでさえ、後発事象だけを扱った3時間セミナーは他にはない中で、さらにレアでコアなテーマのセミナーでありながらも、想定をはるかに上回る方々にご参加いただきました。これも、産業経理協会さんのご尽力のおかげです。

今回、後発事象の「時点」に注目したのは、2024年4月以降から四半期決算短信への一本化が始まるためです。この新制度に円滑に対応するためには、後発事象も考慮する必要があります。そうした社内体制の構築や見直しのヒントが得られるように、後発事象が制度導入された当時の背景や、かつてのASBJでの基準開発の頓挫や、現在進行中のJICPA実務指針のASBJへの移管プロジェクトなどでにおける論点を説明しました。こうして後発事象の論点を整理した中で、四半期決算短信への一本化における後発事象の問題を明らかにしました。

セミナーの休憩時間にも質問があったり、終了後には質問の列ができたりと、このようなレアでコアな内容にピンと来てご参加されるだけあって、問題意識をお持ちの方ばかりでした。こうした質問に答える中で、四半期決算短信への一本化の根底にある問題は後発事象の取扱いが不明瞭な点にあることを再確認しました。なぜなら、取引所の財務報告の枠組みには開示後発事象しか考慮されていないような印象を受けるからです。

そもそも、修正後発事象について明確に意識されているなら、決して「決算の内容が定まった場合」に直ちに決算短信の開示を要求するという取扱いにはならないでしょう。後発事象の評価終了日までは、開示後発事象はもちろんのこと、修正後発事象にも対応する必要があります。決算数値はまだ変動する可能性があるのです。その評価終了日が到来していない以上、それよりも前に「決算の内容が定まった場合」という時点が訪れることはあり得ません。財務諸表がこれだけ見積りの塊となっている現状を踏まえると、修正後発事象によって決算数値を変更する状況は稀ではありません。

その他にも、期中レビューを受ける場合に、企業が開示後発事象の注記を行わないときの監査人の対応が適切かどうかについても疑問を提起しました。最終的にその注記が行われない場合には期中レビュー報告書に「その他の事項」として報告することになっています。しかし、それでは企業が開示すべき内容を監査人が代替することになります。苦肉の策かもしれませんが、取引所の財務報告の枠組みに対して、もう少し強く意見を述べてもよかったのではないでしょうか。

このような話もしているため、3時間のセミナーはあっという間に終了しました。最初は「時点」に焦点を当てた内容で3時間も話せるかどうかを心配していましたが、むしろ時間が足りないくらいでした。ご参加いただいた方々の実務に役立つことを願っています。

 

GHG表示単位について、SSBJで何が論点とされたか前のページ

サステナビリティ保証の動向を考えるなら、この一冊次のページ

関連記事

  1. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.051 荏原製作所、EY新日本

    文豪ゲーテが開示責任者なら、自社に固有の情報を記載したでしょう。「一…

  2. Accounting

    773.7%のプレミアムがついている書籍『後発事象の実務』

    少し前の話になりますが、2020年12月25日のクリスマスの日に、こ…

  3. Accounting

    監査役に向けた、平時の会計不正対応セミナー

    監査役さんのお悩み。そのひとつに、会計不正への対応が挙げられるのでは…

  4. Accounting

    まだ騒がれていない、東京オリンピックの決算インパクト

    東京オリンピックが始まるのは、2020年7月24日。来年の今頃は、オ…

  5. Accounting

    だから、収益認識は注記が大事なんだってば

    やっぱり、収益認識の新基準って、最初から注記もセットにして公表すべき…

  6. Accounting

    Amazonの「会計学」ランキングで、3位

    Amazonの「会計学」ランキングで、3位となりました。拙著『事例か…

  1. Accounting

    監査人にもオススメのセミナー「棚卸資産の不正事例分析と平時対応」
  2. Accounting

    収益認識の新基準への対応で最も必要なこと
  3. Accounting

    後発事象の改正情報を探し出せ
  4. FSFD

    比較情報の修正が突きつける、サステナビリティ開示の新たな難題
  5. Accounting

    見積り開示会計基準のフォーマットを予想する
PAGE TOP