企業の社会的責任がますます重要視される今日、日本のサステナビリティ開示基準が大きな転換点を迎えています。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が発表した3つの重要な公開草案に対する意見募集が、2024年7月31日に締め切られます。この歴史的な瞬間に、あなたの声を届ける絶好の機会が訪れているのです。
■3つの公開草案
- サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
- サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」
- サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」
これらの基準は、日本で初めて制定されようとしているサステナビリティ開示基準です。企業や投資家、さらには社会全体に大きな影響を与えることが予想されます。これらの基準がどのように形作られるかは、今後のサステナビリティ開示の未来を決定するうえで極めて重要です。コメント提出は、その未来を形作るための貴重な一歩です。
■コメントにあたって注目すべきポイント
SSBJの基準案は多岐にわたるため、特に以下の3点に注目してコメントを検討することをお勧めします。これらの観点から基準案を精査することで、より効果的な意見を形成することができるでしょう。
(1)ISSB基準の正当性
SSBJの基準案は、基本的にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の開示基準をベースにしています。しかし、すべての内容が日本にとって最適であるとは限りません。例えば、特定の業界や地域における独自のニーズや課題が十分に考慮されているか、疑問を持つ部分もあるでしょう。
(2)日本固有の規定
SSBJの基準案には、ISSB基準には含まれていない日本独自の規定も存在します。これらが日本の状況にどのように役立つのか、または改善の余地があるのかを検討することが重要です。これにより、日本の特有の事情に対応した実効性のある基準が形成されます。
(3)重要な論点の抜け落ち
ISSB基準やSSBJ基準案に含まれていないが、重要な論点が抜け落ちていないかを指摘することも必要です。将来の課題に対応するための視点が欠けている場合、それを補完する意見を提出することは有益です。
■あなたの意見が未来を変える
上記のポイントを踏まえつつ、この基準案が今後のサステナビリティ開示の指針となる重要な文書であることを忘れてはなりません。あなたの意見が反映されることで、未来はより持続可能なものになるのです。コメント提出は、あなたの声が未来を形作る具体的な手段となります。
2024年7月17日に、私自身も、次のとおり6点のコメントを提出しました。
No.1
[質問]
質問1(基本的な方針)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
プライム上場企業の適用を想定した開発に反対する。
第30回サステナビリティ基準委員会までは、すべての有価証券報告書提出企業を対象として開発が進められていた。このアプローチは、サステナビリティ開示に対応するための資源が限られている企業に対する実務適用を支援するものであったため、意義深いものであった。
しかし、SSBJによる公開草案はISSB基準をほぼ踏襲しているため、キャパシティに乏しい企業が適用するには困難な面が残っている。この結果、プライム市場への新規上場や他の市場からプライム市場への区分変更に関するスケジュールにおいて、SSBJによるサステナビリティ開示基準の適用が障害となる可能性がある。
SSBJの範疇を超える問題であることは理解しているが、サステナビリティ開示にあたっては、ISSB基準またはSSBJ基準のいずれかを選択できるようにすべきである。その上で、すべての有価証券報告書提出企業が強制適用可能となるようなSSBJ基準の開発を強く求める。これにより、企業の負担を軽減するとともに、サステナビリティ開示の普及と質の向上を図ることができると考えられる。
No.2
[質問]
質問2(ガイダンスの情報源)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
SASBスタンダードを参照し、その適用可能性を考慮しなければならない(shall consider)とする取扱いに反対する。
その理由はSASBスタンダードにはISSB基準と同様のデュー・プロセスに基づき改正手続が行われるものではないという「正当性」の問題が存在するからである。基準設定主体として、この正当性については譲歩すべきではない。いくらSASBスタンダードの有用性が認められるとしても、正当性の欠如はその信頼性と透明性を損なう可能性がある。
また、SSBJはこれまでもISSBに対してSASBスタンダードの正当性への疑念を繰り返し提起し、かつ、その解消を求めてきた。オーストラリア会計基準審議会との連名でのコメントも行い、一貫してこの堅持し続けている。したがって、正当性が確保されない限り、SASBスタンダードの「shall consider」には強く反対する。
No.3
[質問]
質問4(温対法に基づく報告)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
温対法に基づく温室効果ガス排出量の報告に関する提案に同意しない。温室効果ガス排出量の報告が経営者の削減努力を適時に反映しないことは、経営管理上の問題がある。例えば2050年ネットゼロという目標を掲げていた場合に、温対法に基づく温室効果ガス排出量の報告を利用すると、2049年に目標を前倒しで達成するか、あるいは、2050年に達成しても目標未達と誤解されるリスクがある。また、有価証券報告書の提出が期末日後4ヶ月以内とされた場合でも、海外子会社を含む温室効果ガス排出削減の取り組みにおいて異なる測定方法が混在するため、統一的な経営管理が困難となる可能性がある。
問題の根本は、「温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004年)」に基づく測定と開示がグローバルベースラインとして定められたにもかかわらず、温対法がこれを容認しない点にある。SSBJによる基準開発において、温対法を前提とする必要があることは理解しているが、環境省等に対してグローバルベースラインの実現を強く主張することを期待する。
No.4
[質問]
質問11(その他)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
気候基準案第40項には、一般基準案第29項(2)に相当する開示目的が追加されるべきであると考える。一般基準案第29項(2)は、リスク管理の開示目的として「企業の全体的なリスク・プロファイル及び全体的なリスク管理プロセスを評価すること」を規定している。これに対して、気候基準案第40項には、このような開示目的が含まれていない。SSBJの気候基準案が「気候関連開示に関するコア・コンテンツの定めについて、本基準を適用すれば『一般基準』の定めを確認する必要がないように記述している」(気候基準案BC10項)性格を踏まえると、一般基準案第29項(2)に相当する開示目的を追加することが適当と考えられる。
No.5
[質問]
質問11(その他)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
気候基準案BC105項における温室効果ガス排出量の表示について、「少なくとも桁数が大きい方から3桁について表示しなければならない」という要求事項に反対する。
まず、当該要求事項はISSB基準に定めがないにもかかわらず、追加すべき明確な理由が説明されていない。積極的な理由が欠如している状況では、当該要求事項の正当性に疑問が残る。
次に、温室効果ガス排出量の測定には、バリュー・チェーン全体からの報告値が含まれるため、その正確性や見積りには幅がある。企業は、投資家との対話を含む自社の状況に応じて有効数字や有効桁数を判断したうえで、報告を行っていると考えられる。こうした柔軟なアプローチにより、関係者にとって意味のあるデータが提供されている。こうした中で「少なくとも桁数が大きい方から3桁」という要件を課すことは、温室効果ガス排出量の測定実務に不要な複雑さをもたらすだけでなく、データの精度に対する誤解を生む可能性がある。
No.6
[質問]
質問11(その他)
[コメントの前提]
①及び②共通
[コメント]
気候基準案BC105項における温室効果ガス排出量の表示に関する「少なくとも桁数が大きい方から3桁」という要求事項が有効桁数を意図していない場合にはその旨を明記すべきである。
この規定の表記どおりであれば、例えば、「0.0012345」の場合、「0.00」という表示を意図しているものとも解釈できる。一方で、第29回サステナビリティ基準委員会の資料番号「審議事項A1-2」には「有効数字(有効桁数)」という用語が登場していた。同様の例で有効桁数を3桁とする場合、「0.00123」と表示することとなる。このように表記が統一されない可能性があるため、解釈を明記すべきである。
仮に、有効桁数を意図している場合には、現状又は将来に温室効果ガス排出量が少ないスコープやカテゴリーに対して有効桁数3桁を表示するための測定実務を煩雑ならしめる可能性があるため、「少なくとも桁数が大きい方から3桁」という要求事項に反対する。
このコメントは一面に対するもののため、まだまだ不十分です。多様な視点、異なる経験、そして斬新なアイデアが必要なのです。
あなたは、この歴史的な瞬間に立ち会っています。そして、その歴史を形作る機会を手にしているのです。2024年7月31日という締め切りは、単なる期限ではありません。それは、より良い未来への扉を開く鍵なのです。
今こそ、あなたの声を届ける時です。サステナビリティ開示の未来は、あなたの手の中にあるのです。SSBJのウェブサイトにアクセスし、あなたの洞察や提案を提出してください。一人一人の意見が、より持続可能な日本、そして世界の構築につながるのです。2024年7月31日の締め切りを忘れずに、今すぐ行動しましょう。