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トップの「本気度」が未来を変える──サステナビリティ開示が問う企業価値の真実

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2025年4月24日、IFRS財団が主催する「サステナビリティ開示に関する視点」シリーズの第9回ウェビナーが配信されました。今回のテーマは、「Ramping up systems and processes for sustainability data」、すなわち、サステナビリティ・データの収集・管理・開示を支えるシステムとプロセスの高度化です。

https://www.youtube.com/watch?v=2QqMFbju5Xw

このセッションでは、ISSB基準に基づくサステナビリティ関連財務情報の開示に向けた体制整備や内部統制、さらには実務上の課題とその解決策が、多角的な視点から議論されました。とりわけ焦点となったのは、「構造」「制度」「経営意思」という三つの層に潜むボトルネックです。本稿では、それらを紐解きながら、企業価値に結びつく体制とは何かを探っていきます。

  

ISSB基準、とりわけIFRS S1が企業に突きつけているのは、「何を報告するか」ではありません。「どう報告するか」、いや、それ以前に「なぜ報告するのか」という、企業姿勢そのものへの問いかけなのです。

同基準は、開示すべきサステナビリティ情報を「重要性(materiality)」に基づいて選定するよう求めています。また、これらの情報が企業の戦略、財務、業績と「つながりのある情報」として一体的に開示されることも要請しています。つまり、サステナビリティ開示が財務情報から孤立している限り、投資判断には役立ちません。構造化された全体像の中でこそ、数字は意味を持つのですから。

サステナビリティ情報が「使えるかどうか」を決定づけるのが、IFRS S1が掲げる質的特性ですね。「忠実な表現」として、事実に即した中立的な開示であることや、希望的観測や断片的な強調を排除することが必須とされます。「比較可能性」として、企業間はもちろん、自社の過去との連続性がなければ、投資家は「トレンド」を読むことすらできないでしょう。「検証可能性」として、保証や内部統制を通じて裏打ちできない情報に、市場はもう耳を貸さないのです。

さらに、実務上の困難も前提に据えられています。バリューチェーン全体のデータを精緻に取得するのは容易ではありません。そこでISSB基準は、見積り、代理値、範囲の使用を容認しています。そこでは、用いた手法や仮定、限界を明示するだけでなく、年を追うごとに精度と範囲を高めていく「改善の軌跡」を提示する必要があります。これこそが、誠実な開示に求められる態度なのですよ。

ISSBは、ゴールは示すものの、そこへの地図までは描きません。プロセスは企業ごとに異なるためです。だからこそ、問われるのは「実装力」です。それを補完するために紹介されたのが、ACCA(英国勅許公認会計士協会)やCOSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)、WMB(We Mean Business Coalition)といった専門団体からの報告です。

 

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