サステナビリティ開示基準が従来の財務報告体系に持ち込んだ最も革新的な要素の一つが「産業別開示」です。会計基準の世界では長らく、産業を問わず統一された開示フレームワークこそが比較可能性と透明性を担保するものと考えられてきましたからね。ところが、環境・社会・ガバナンス情報の本質的性質は、産業固有のリスクと機会を無視しては語れない複雑さを内包していたのです。
しかし、この産業別という枠組みそのものを根底から見直す議論が起きています。日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)における最新の制度論議と、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)がセクター基準開発を電撃的に停止した背景を検証することで、制度設計の未来図を描き出してみましょう。
■SSBJが直面した設計思想の根本的対立
2025年9月16日に開催された第57回SSBJ会合では、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による「SASBスタンダード修正案」および「IFRS S2号産業別ガイダンス修正案」への対応方針が審議されました。この議論の核心にあったのは、サステナビリティ開示制度の根幹に関わる二つの設計思想の根本的対立だったのです。