FSFD

数値が静かでも、説明は沈黙できない。IAS第1号第31項が再起動する理由

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2025年7月、IASBは最終段階に近いスタッフ草案として「気候関連の例を用いた財務諸表における不確実性の開示」を公表しました。

  • Disclosures about Uncertainties in the Financial Statements Illustrated using Climate-related Examples

https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/07/near-final-climate-related-examples-report-uncertainties

確定版の公表を待たずに提示されたこの文書は、実務への迅速な適用支援を意図したものに他なりません。IASBが示したのは、形式的な基準遵守の先にある、より本質的な問いでした。財務諸表は本当に利用者の理解を満たしているのか、という問いです。

中でも注目すべきは、設例1「IAS第1号第31項[IFRS第18号第20項]を適用した重要性の判断」です。ここで扱われているのは、多くの企業が直面しながらも、巧みに避けてきた矛盾です。財務諸表の外部では気候変動リスクや移行計画が詳述される一方、財務諸表の内部ではそれらが一切言及されない、あるいは「重要性がない」とだけ記される。この情報の断絶をどう埋めるかという難題に、設例1は正面から答えようとしています。

IASBが目指すのは、単に数値的な閾値の超過・不超過で開示の要否を決める発想から離れ、定性的判断を通じて文脈的整合性を確保することです。形式的なIFRS準拠を超え、財務諸表全体として投資家の理解を誤らせないことこそがIAS第1号第31項の真意なのです。設例1はその原則を実務の中で再起動させる試みです。

設例1は、追加開示に踏み切る企業Aと、合理的に非開示を選ぶ企業Bを並置させています。その狙いは、開示の多寡ではなく、説明責任の果たし方そのものを可視化することにあります。つまり、「何を語るか」と同じくらい「なぜ語らないか」も、戦略的な選択として位置づけられるのです。

 

2025年最新KAMセミナー:いま、企業の“説明責任”が静かに試されている前のページ

内部監査×生成AI活用術――KAMで実現する経営洞察型監査への進化次のページ

関連記事

  1. FSFD

    会計基準との違いがみえる、SSBJ基準の適用関係

    やっぱり、サステナビリティ開示基準は、会計基準とは異なる点があります…

  2. FSFD

    温室効果ガス排出削減コミットメント、IFRSが会計基準の解釈を示す

    2024年4月に、IFRS解釈指針委員会から気候関連のコミットメント…

  3. FSFD

    語る企業と沈黙の監査人:サステナビリティ開示時代の会計監査の致命的欠陥

    国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)や日本のサステナビリティ基…

  4. FSFD

    ISSBのスコープ3カテゴリー15修正案が投げかける本質的な問い

    2025年4月28日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、…

  5. FSFD

    初めて取り組む場合のサステナビリティ開示の選び方

    初めてサステナビリティ開示に取り組む場合、何を開示するのが適切かにつ…

  6. FSFD

    気候リスクを考慮した監査が進まない要因—監査継続年数の影響とは?

    近年、企業の財務報告における気候関連リスクの開示が世界的な課題となっ…

  1. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.030 三菱UFJフィナンシャル・グループ、トーマツ
  2. FSFD

    米国サステナビリティの二幕劇:政治はブレーキ、経済はアクセル全開
  3. Accounting

    ワクワクする英語文献へのアクセス
  4. Accounting

    KAM早期適用結果の「セミナー」へのご興味は
  5. Accounting

    『組織ガバナンスのインテリジェンス』の知見を通じて解く、CG報告書の訂正実務
PAGE TOP