FSFD

気候シナリオ分析の成熟と実践 ― 「始める勇気」が企業の未来を決める

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

気候関連のサステナビリティ開示において、シナリオ分析ほど難解で、同時に実務的挑戦を伴う領域はありません。多くの企業が「データが不十分だから」「モデルが確立していないから」と躊躇する中、2025年10月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は極めて示唆的なウェビナー「視点シリーズ」を公開しました。

  • Perspectives series: Climate-related scenario analysis”(気候関連のシナリオ分析)

このウェビナーでISSBが真っ向から否定したのは、「完璧なデータやモデルがなければ始められない」という思い込みです。繰り返し強調されたメッセージは、次の一文に凝縮されていました。

“Start where you are and with what you have.”
(いま持っているリソースと理解の範囲から始めよ)

 

この言葉は単なる精神論ではありません。シナリオ分析の本質は、未来を正確に予測することではなく、不確実な環境のもとで意思決定の質を高める「思考の訓練」にあるのです。完璧主義が行動を遅らせる間に、市場環境は刻々と変化し、規制は厳格化し、また、投資家の要求水準は高まっていきます。行動を遅らせることこそ、最大のリスクとなるわけですね。

本稿では、ISSB基準の条文には明記されていないウェビナーでの実務的示唆を整理したうえで、①段階的成熟、②多層適用、③体系的手法の三つの観点から、企業がシナリオ分析をどのように実装すべきかを再構成します。

 

【掲載報告】あの論点が、想定外のかたちで取り上げられました前のページ

15年越しの基準開発が問う——日本の会計制度における「決断の不在」次のページ

関連記事

  1. FSFD

    確定SSBJ基準を徹底解説する先駆的セミナーを開催します

    ■企業価値向上の鍵となる新基準を、いち早く理解する2025年…

  2. FSFD

    SSBJ基準の「二重アプローチ」と今後の対応策

    サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の審議は、3つのサステナビリテ…

  3. FSFD

    GHGプロトコル大改定の影響を最新情報でフォローアップ

    気候関連の開示では、GHG(温室効果ガス)排出量の測定と報告が不可欠…

  4. FSFD

    2023年12月のセミナー「サステナビリティ開示の最前線」

    サステナビリティ開示の動向を理解するために、最も適した方法とは何か。…

  5. FSFD

    水リスク:日本企業が直面する新たなサステナビリティ課題

    サステナビリティ開示において水リスクの重要性が増しています。しかし、…

  6. FSFD

    一体、何がSSBJ基準の「結論の背景」に書き込まれるのか

    少しずつ、SSBJによるサステナビリティ開示基準の概要が見えてきまし…

  1. Accounting

    KAM強制適用事例、第3号の登場
  2. Accounting

    『リースの数だけ駆け抜けて』第8話「空回りの情熱」
  3. Accounting

    機関誌『産業經理』への寄稿「気候変動の開示で会社法決算が不安定に」
  4. FSFD

    IFRS財団ウェビナーに学ぶ、GHG排出量の測定実務
  5. Accounting

    『「第三者委員会」の欺瞞』から説明責任を学ぶ
PAGE TOP