ISSBが2025年9月25日の会合で下した暫定決定は、一見すると「企業の開示負担を軽減する親切な救済措置」のように映るかもしれませんね。しかし、その本質を理解するには、表面的な利便性の話を超えて、もっと深いところにある制度設計上の問題に目を向ける必要があるのです。
今回の決定は、IFRS S2号「気候関連開示」のカテゴリー15スコープ3「投融資に関する温室効果ガス(GHG)排出」について、限定的な救済措置を最終化する方向で固まったものです。企業は、カテゴリー15のすべてのGHG排出を網羅的に測定・開示する代わりに、一定の条件のもとで「ファイナンスド・エミッション」(融資や投資ポートフォリオなどに起因するGHG排出)に限定した開示を選択できるようになります。
ただし、誤解してはいけません。これは「測定が難しいから少し軽くしましょう」という単純な温情措置ではないのです。ISSBスタッフが会合で明言しているように、今回の改訂の真の背景には、IFRS S2号本文が要求している内容と、その「結論の根拠」が説明しているISSBの意図との間に存在していた矛盾が、実務の現場で深刻化していたという事実があります。







