FSFD

IFRS S2号修正の本質:カテゴリー15をめぐる「矛盾の解消」と「選択的救済による整合化」

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

ISSBが2025年9月25日の会合で下した暫定決定は、一見すると「企業の開示負担を軽減する親切な救済措置」のように映るかもしれませんね。しかし、その本質を理解するには、表面的な利便性の話を超えて、もっと深いところにある制度設計上の問題に目を向ける必要があるのです。

今回の決定は、IFRS S2号「気候関連開示」のカテゴリー15スコープ3「投融資に関する温室効果ガス(GHG)排出」について、限定的な救済措置を最終化する方向で固まったものです。企業は、カテゴリー15のすべてのGHG排出を網羅的に測定・開示する代わりに、一定の条件のもとで「ファイナンスド・エミッション」(融資や投資ポートフォリオなどに起因するGHG排出)に限定した開示を選択できるようになります。

ただし、誤解してはいけません。これは「測定が難しいから少し軽くしましょう」という単純な温情措置ではないのです。ISSBスタッフが会合で明言しているように、今回の改訂の真の背景には、IFRS S2号本文が要求している内容と、その「結論の根拠」が説明しているISSBの意図との間に存在していた矛盾が、実務の現場で深刻化していたという事実があります。

 

15年越しの基準開発が問う——日本の会計制度における「決断の不在」前のページ

GICS義務撤廃がもたらす開示制度の静かな革命——形式の終焉と実質の時代次のページ

関連記事

  1. FSFD

    サステナビリティ報告の保証市場に関する分析:英国FRCの最終報告と日本市場への示唆

    2025年2月、英国の財務報告評議会(FRC)は、サステナビリティ報…

  2. FSFD

    全産業に広がる改革の波:SASBスタンダード改正の行方を探る

    サステナビリティ関連の基準やフレームワークは、刻々と変化しています。…

  3. FSFD

    2025年1月ISSB会議が注目するGICS使用要件

    ISSBは、IFRS S2基準の修正に向けた議論を本格化させています…

  4. FSFD

    反対票が投じられた企業の「気候会計・監査ハイブリッド評価」対応

    英国FTSE100銘柄の企業の中には、2021年12月期の株主総会で…

  5. FSFD

    ISSB基準が変えるGHG排出の過年度報告

    気候変動への対策が世界的な課題となる中、企業の環境報告はかつてないほ…

  6. FSFD

    GHGプロトコル大改定の影響を最新情報でフォローアップ

    気候関連の開示では、GHG(温室効果ガス)排出量の測定と報告が不可欠…

  1. FSFD

    IFRS S2が描く「新・排出量開示の設計図」──GHGプロトコルからの静かな決…
  2. Accounting

    金融庁からの2022年版KAM分析資料を読み解く
  3. Accounting

    リスクを過大に表現しないための見積開示セミナー
  4. Accounting

    出版記念イベントに無料で参加できます
  5. Accounting

    経営者視点の書評が、週刊経営財務に掲載されました
PAGE TOP