サステナビリティ情報の保証制度をめぐる議論では、「誰が保証を担うのか」という問いが、しばしば正面に据えられてきました。監査法人に限定されるのか、それとも非監査法人にも門戸が開かれるのか。その是非を巡る議論です。
その答えを提示するものが、2026年1月8日に、金融審議会が公表した「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」による報告書(以下、「WG報告書」という)です。これは、日本におけるサステナビリティ情報開示制度の具体的な輪郭を明らかにする、極めて重要な文書です。
- 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告の公表について
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20260108.html
WG報告書は、「profession-agnostic(特定資格に依存しない)」という原則を明示的に掲げました。これは一見すると、担い手の多様化を志向する、開放的な制度設計に映ります。実際、形式的には特定の主体を排除しない構造が採られています。
しかし、本当に問うべきなのは、制度が形式上どれほど開かれているかではありません。なぜなら、保証制度が立ち上がる初期段階では、そこに確立された思考様式や手続が、その後に暗黙の参照点として機能しやすいからです。
保証制度が形式上は開かれていながらも、実質的には単一の思考様式に収斂していくこの「形式的開放性」と「実質的単一化」の乖離こそ、今後数年間にわたって企業側が直面する最大の落とし穴かもしれません。
■「開かれた制度」の内実――profession-agnostic原則と保証実務の形成構造
WG報告書を読み解くには、少し前の文脈から押さえる必要があります。
2025年7月に示された中間論点整理では、すでにサステナビリティ情報に対する第三者保証制度の基本的な骨格が示されていました。導入時期、保証水準、保証範囲という三つの軸です。具体的には、SSBJ基準の適用開始時期の翌年から制度保証を導入し、保証水準は限定的保証にとどめ、当初2年間の保証範囲はスコープ1・2のGHG排出量およびガバナンス・リスク管理に限定するという整理でした。
今回のWG報告書は、中間論点整理において「引き続き検討」とされていた論点に踏み込み、制度設計の具体像を明らかにしています。言い換えれば、これは「枠組みを描く」段階から「実行可能な設計図を完成させる」段階への移行を意味しているのです。
ここで注目すべき点は、保証業務の担い手について、WG報告書が「profession-agnostic(プロフェッション・アグノスティック)」、すなわち特定資格に依存しないという原則を明示的に掲げていることです。一定の要件を満たす法人であれば、登録可能とされています。その背景には、保証の担い手を監査法人に限定すること自体が、将来の制度リスクになり得るという認識があります。
確かに、形式上は「開かれた制度」と言えるでしょう。しかし、その登録要件を見ると、話はそう単純ではありません。監査法人と同等の水準を志向した設計になっているからです。
保証業務実施者には、専門性を有する業務執行責任者の配置と適切な人員体制の確保が求められます。さらに、組織的な品質管理体制の整備、賠償資力を含む十分な財産的基礎の確保も必要です。加えて、業務執行責任者のローテーション義務、利益相反の回避・禁止、守秘義務といった行為規制が課されます。こうした規制の履行状況については、当面は金融庁が検査・監督を担う枠組みです。虚偽保証や法令違反が認められた場合には、行政・民事・刑事の各側面において、監査法人と同等のエンフォースメントが適用される設計となっています。
こうした制度設計は、制度初期における保証実務が結果として監査法人の思考様式や方法論を軸に形成されていく構造を内包している点にこそ注意が必要です。形式上は特定の主体を排除していないとはいえ、監査文化を前提とした判断や手続が、明文化されない実務上の前提として積み重なっていく結果になるからです。
購読者限定|この先で扱う内容
保証基準や品質管理要件が実際の保証実務をどのように形作り、その初期段階での判断が企業の将来の開示やコストにどう関わるのかを検討します。
・ISSA5000・ISQM・IESSAが求める保証実務と品質管理の要件
・制度初期における暗黙の実務基準の形成と、その後の参入環境への影響
・初期の保証判断が開示の自由度・保証コストに及ぼす影響と、企業が検討すべき対応







