会計の世界で「不正」というと、いわゆる粉飾決算と横領の2つのこと。この2つの際立った違いに、今日、気づきました。
というのも、来月、プロネクサスさんで「棚卸資産の不正事例分析と平時対応」というセミナーの講師を務めます。そこで、2018年の不正事例を説明用にとりまとめていました。このときに使っていたツールが、「フラウド・キャンバス(Fraud Canvas)」。
これは、「不正のトライアングル」という考え方で用いられている要素、すなわち動機・プレッシャー、姿勢・正当化、機会の3つを、個々の5つに分解して組み込んで開発したもの。不正を実行している人に注目したときに、不正のトライアングルを3つではなく5つとして捉えたほうが、その人の内面と対外関係とが説明しやすいからです。
このツールは、「キャンバス」という名前であったり、9つの要素を一枚のマップにまとめていたりとしているとおり、ビジネスモデル・キャンバスから着想を得たもの。ボクは、一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会の認定ジュニアコンサルタント。なので、ビジネスモデル・キャンバスを会計不正用にアレンジしてみました。
元々は自身の整理のために開発したもの。だけど、これを提示した方が参加者の理解に役立つのではないかと思い、プロネクサスさんの昨年のセミナーから披露しています。ちなみに、拙著ではまだ披露していないツール。
これまでのセミナーでは、棚卸資産に関する不正事例のうち粉飾決算に関するものを取り上げていました。そういう意味では偏っていたのかもしれません。しかし、今回、たまたま横領に関する事例も説明候補として抽出されました。そこで、この横領についても、いつものとおりフラウド・キャンバスで全体像を描いていたら、まったくの空白地帯が生じたのです。
粉飾決算に関する不正事例では、フラウド・キャンバスの9つの要素が綺麗に埋まるところ、横領では2つの要素が埋まらないのです。これには新鮮な驚きを覚えました。
確かに、冷静に考えれば、その2つの要素は、粉飾決算ではあり得るものの、横領では想定しにくい。というか、不正の実行者が別の1つの要素に向いていないため、当然に空白になります。
実は、その別の1つの要素も半ば強引に設定しています。そのため、これも含めると3つの要素が、しかも、固まっているエリアがまったくの空白地帯になるのです。これは面白い発見でした。
その続きはセミナーで・・・、と話そうとしましたが、もったいぶっていても仕方ないので、このブログでシェアしますね。
結論から言うと、「報告受領者」と「プレッシャー」と「正当化」の3つ。つまりは、不正を実行した人の対外関係の領域。
粉飾決算の場合、何かの財務情報を実態よりも良く見せかけるのは、その財務情報を利用する人がいるから。経営者不正なら株主や投資家、従業員不正なら経営者、子会社なら親会社といったように、粉飾された財務情報の報告を受け取る「報告受領者」がいます。
この報告受領者を意識したときに、不正を実行する人は、この状況をしのごうとして、粉飾決算を行わざるを得ないプレッシャーを感じます。また、そうすることが会社のため、同僚のため、自分のためと粉飾決算をすることを正当化するのです。
しかし、横領の場合には、報告受領者はいません。誰かに意識を向けた行為ではなく、あくまでも自分の中で完結している話。株主や投資家、経営者、親会社といった相手に対して現状を繕うことを目的としていないため、プレッシャーもかかっていなければ、横領していることを正当化する必要も乏しいのです。
すると、フラウド・キャンバスでは、対人関係の領域がスッポリと空白になってしまうのです。考えてみれば特に不思議なことはないのですが、こうしたツールでそれを「見える化」しない限り、そのことを言語化することはなかったでしょう。だから、面白い発見だと思ったのです。
というワケで、来月のセミナーでは、この発見についても説明しようと考え中。そのセミナーは、次のとおり、開催します。
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■テーマ
棚卸資産の不正事例分析と平時対応
~ 平時における仮説検証アプローチのワークを含めて解説 ~
■開催日時
2019年3月11日(月)14:00~16:30
■開催場所
プロネクサス セミナールーム(東京都港区)
■プログラム
①棚卸資産に係る不正事例 ②業務プロセスの単純化モデルの活用 ③不正の有無を検討する手続
■受講対象者
経理財務、総務法務部門等の担当役員・実務責任者、内部監査担当者、監査役等
■受講料
・ディスクロージャー実務研究会会員 19,440円(本体価格18,000円)
・ディスクロージャー実務研究会会員以外のお客様 23,760円(本体価格22,000円)
■本セミナーの詳細
https://p-support.pronexus.co.jp/home/files/open/20181221d.pdf
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このセミナーは毎年、紹介する事例をアップデートしています。以前に参加された方でも学びが得られるようにしていますので、今回も参加しても新しい発見があるでしょう。
また、フラウド・キャンバスのように、新しいツールによる解説も付け加えています。このツールを用いた解説は、今のところ、全世界でこのセミナーしかありません。
しかも、このセミナーは頻繁には開催されていません。今回の機会を逃すと、次はおそらく来年。フラウド・キャンバスを使った不正事例の分析の仕方を学ぶ機会を一年も待たないといけません。
ピンときた方は、ぜひ、お早めにお席を確保してください。当日は、紹介する不正事例のすべてをこのフラウド・キャンバスでも説明していきますので、お楽しみください。
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https://p-support.pronexus.co.jp/home/files/open/20181221d.pdf