人は、つい、自身の視野で物事を考えがち。ビジネスモデルを考えるときも同じ。同業他社と関係するミクロ環境は考慮しても、同業他社も含めて立脚しているマクロ環境にまでは気が回らないこともある。
そんなマクロ環境の検討に有効な手法として、「PEST分析」が挙げられます。Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字をとったもの。これらの観点から検討することでマクロ環境の分析に大きな漏れがなくなるという、優れものツール。
マーケッターの観点からは、このうちのSociety(社会)に含まれる「人口」は極めて重要なデータ。なぜなら、消費が盛んな年代がどのタイミングで訪れるかを知ることは、需要が大きくなる時期を予測することに等しいから。
お金を使う年代が1万人なのか、あるいは、100万人なのかによって、マーケットのサイズは大きく変わる。人口動態は大きく変動することがないため、お金を使う年代があと何年後に多くなるという確固たる予測も可能になる。まさに、ピーター・ドラッカーがいう「すでに起こった未来」。
そんな人口に基づく分析の話を聞きたいと思っていたときに、今日、そのことが真正面から論じられている本を読みました。それは、『2049 日本がEUに加盟する日 HUMAN3.0の誕生』(集英社)。コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門にしている高城剛サンによる未来予測本。
この本では、まず気候変動というSocietyの観点から始まり、次に世界各国の状況がPoliticsとEconomyの観点だけではなくSocietyのうちの人口動態も考慮した分析を行い、最後にTechnologyの観点を踏まえた提言に至っています。このように、PEST分析がほどよくミックスされているのです。こういう話を聞くと、とても心地よい。
中でも興味深かったのは、気候変動によって民族の移動が活発化する、という指摘。天才物理学者のバレンチナ・ザルコヴァ教授は、2020年頃から地球が寒冷化すると予測しているそうで。
世界的な気温の低下は、食糧の不作を招く。また、ヨーロッパではドイツで働いている移民が仕事と暖かさと食料を求めて南下しだす。かつての「ゲルマン民族の大移動」と似たことが起きると、当然に経済にもインパクトを与える。
ボクが思うに、この民族の大移動は、何もヨーロッパに限らない。地球の寒冷化を受けて、他の大陸でも人口動態に影響を及ぼすほどに人が移動する可能性もある。すると、現在の人口が「すでに起こった未来」にはならないシナリオも十分に考えられるのです。
マーケットのサイズに大きな影響を与える人口動態が予測できなければ、どこでビジネスをすれば当たりやすいかが予測できない。いくらビジネスモデルを上手く描けたとしても、それが立脚するマーケットが小さければ、ビジネスの規模も自ずと制限される。
そんな大きな変動が起きるかもしれないときに、同業他社との世界に閉じこもっていては、共倒れしてしまいます。もう少し視点を高くすることによって、マクロ環境で何が起きようとしているのかについても考えておく必要があるのです。
ところで、この本では、人類はHUMAN3.0へと進化すべきことを主張します。体内に埋め込んだチップでネットワークを通じて他者とつながる世界。脳とクラウドが接続されるのです。映画『マトリックス』の世界、そのもの。
もし、かなりぶっ飛んだ話だと違和感を覚えたのなら、世界の動きについて行けてないかも。例えば、IoTの概念を作ったひとりのデイブ・エバンス氏は、2050年に人体、デジタルデバイス、クラウド・ネットワークの3つが本格的に融合すると言います。こうした見解は、何も突拍子もない絵空事ではないのです。
視野を高める、広めるには、もっと世界を知らなければなりません。だから、ボクらは、常に学び続けるのです。すると、あと31年後、ボクらが接続したときに、どんな世界が広がっているのかも見えてくるでしょう。2050年に、その答え合わせをしましょうか。