少し前の話になりますが、2019年9月3日に企業会計審議会に傍聴してきました。その日の主な議論は、通常とは異なる監査意見等に関する取り扱いに関する監査基準等の改正。それを確定するかどうかが決まる日でした。
ただ、その議論は比較的すんなりと可決されます。で、後半に用意されたアジェンダは、会計基準を巡る変遷と最近の状況等について。その説明を受けての質疑応答で、今でも鮮明に覚えているシーンがあります。
委員からの発言の中で、IFRSから日本の会計基準に戻るときにルールがなくても良いのか、という質問。IFRSで、のれんの償却処理が復活するのではないかという報道があったことを踏まえて、それではIFRSを採用した旨味がなくなると感じた企業が、日本の会計基準に戻ってくる可能性があると指摘したのです。
そのときには、「確かに、それはそうだ」と関心したものです。日本基準からIFRSへと変更したものの、やっぱり日本基準へと戻りたいと考える企業が存在するかもしれない。そんなときに、制度上の手当がなければ、実行することができないのです。
しかし、事務局いわゆる金融庁サイドからの返答は、IFRSから日本基準へと戻ることは想定していない、とのこと。私見といいつつも、「いわゆるスタンダードショッピングと言われるような形の動機での会計基準の変更というのは望ましくない」と考えていると添えていました。
でも、IFRSから日本基準へと戻る行為は、必ずしもスタンダードショッピングとは言えません。というのも、2019年12月のイギリスでの総選挙。その結果、反グローバリズムへと向かうことが明らかになったと言われています。
IFRSとは、マネーがグローバリゼーションしていく中で、それを表現する会計基準が揃っていないことを問題視して発展してきたもの。元々はそこまで強く主張していなかったものの、IOSCOの比較可能性プロジェクトが後押しとなって、会計基準もグローバリゼーションしていった経緯があります。
そのIFRSの本拠地があるのは、イギリスはロンドン。IFRSを作成している国際会計基準審議会(IASB)の前進である国際会計基準委員会(IASC)は、イギリスのヘンリー・ベンソン卿が提唱して設立しました。つまり、イギリス色が強いと考えることができます。
ところが、そのイギリスがEUから離脱しようとしています。俄然、関心が高まるのは、IFRSへの向き合い方。グローバリゼーションから反する動きを示したため、IFRSを支持する必要性が薄くなります。もしも、万が一、IFRSの採用をやめることになったなら、IFRSの普及に否が応でも影響が及びます。
そんな中で、何ら影響を受けないのが、アメリカ。SECの会計政策として、昔から貫いてきたスタンスは、アメリカの会計基準が中心。今では、IFRSを採用する外国企業も、調整表なしに受け入れるようになってきますが、それでも容認に過ぎません。
もっといえば、IASにもIOSCOにも人を送り込んでいます。そうやって、アメリカの会計基準にIFRSを近づけていった歴史があるのです。あるいは、アメリカの会計基準を簡素化するためにIFRSを利用した側面もあるかもしれません。
この辺りの動向は、関西学院大学の杉本徳栄サンによる『アメリカSECの会計政策―高品質で国際的な会計基準の構築に向けて』(中央経済社)に詳しい。今から10年近く前に、日本でもIFRSが強制適用されるのではないかと騒がれていたときに、夢中になっていた本。今、読んでも、SECのスタンスがよく理解できる良書のため、あなたに激オススメ。
このように、アメリカSECには確固たる姿勢があります。周りの会計基準に振り回されることなく、むしろ利用しているのです。だから、イギリスがEUから脱退したことによるIFRSへの影響も、何も気にしない。
ボクも、1年ほど前のブログ「イギリスEU離脱問題から占うIFRSの行方」で、Sカーブ字に従えば「2030年くらいにはIFRSも廃れるだろう」と予言していたと紹介しました。なんだか、的中に向かっているようなイギリスの動き。
さて、どうなるか。あと10年後のお楽しみ。