世に引用の本が出るなり。そんなサザンオールスターズのアルバムのタイトルのような出だしですが、2020年6月に「引用」をテーマにした本が発売されていました。
確か、Amazonのレコメンドで表示されたのを見て、即座に購入。こんなにレアでコアな本に、なかなかお目にかかることができませんからね。その本は、佐渡島紗織・ディエゴ オリベイラ・嶼田大海・ニコラス デルグレゴ共著の『レポート・論文をさらによくする「引用」ガイド』(大修館書店)です。
◎ 引用の4つの書式
この本は、引用について、形式的な側面よりも内容的な側面を重視して作られています。
引用したときには、文末に参考文献リストを掲げます。この参考文献の書き方について、研究者の学会に応じてルールがあることは理解していたものの、一般的な書式があるとは知りませんでした。よく知られた書式として、次の4つが紹介されています。
- APA書式:主に社会学系の分野で使用されるもの
- MLA書式:主に、文学や文芸の分野で使用されるもの
- シカゴ書式脚注方式:主に、哲学、思想、歴史などの分野で使われるもの
- IEEE書式:主に工学分野で使われるもの
◎ その引用の書き方に根拠はあるの?
ボクも本を書くことがありますが、こうした書式が存在していることを知らずに、見様見真似で参考文献リストを作成していましたよ。
最新刊では、編集担当者から「こういう書き方がありますよ」と紹介された書式がありました。今、思えば、それはAPA書式。経済系の書籍であったため、この書式が一番適しています。
ところが、そんな書式があることを知らないボクは、提出した形式のままで良いと判断してしまいました。それは、知らずにMLA書式に基づいていました。きっと、文芸関連の書籍で見たものを真似たからでしょう。まったく恥ずかしいものです。
◎ あなどれない引用の書式
もっとも、そんな書式はどうだって良いと考える人がいらっしゃるかもしれません。どれかに基づいていれば十分だと反論するかもしれません。これについて、本書では興味深いエピソードを紹介しています。
ある論文雑誌での話。その雑誌は教育分野を扱っていたことから、APA書式によって論文の投稿を指示していました。
ただ、この雑誌は文化人類学も扱っているものの、論文にはAPA書式が求められていました。それでは書きにくいため、自由な書式を認めて欲しいという要望があったそうです。
これに対して、著名な学者であった編集委員長は、それを認めません。なぜなら、論文雑誌は、研究者同士のコミュニケーションの場であるから。「書式を共有することは、お互いに研究成果を読み合い、学び合い、批判し合うために必要な手続きである。」という編集委員長の説明を紹介しています。
◎ 書式に沿うことで可能になるコミュニケーション
これによれば、ボクの本の参考文献リストの記載では、想定する読者に合った書式で提示していない。そのため、コミュニケーションが取りづらくなっている可能性があります。
書式があることを知っていれば、あえてコミュニケーションが困難となるリスクを負うことはしません。そのことにショックを受けました。
引用や参考文献にも作法があることを知ると、読者とのコミュニケーションがより円滑になる、つまりは、より伝わりやすくなります。やはり、何でも学ぶことが大切ですね。だから、レアでコアな本は楽しいのです。
◎ 監査人によるKAMへの役立ち
ちなみに、引用に対して「要約」という方法があります。引用が文献の言葉をそっくりそのまま用いることであるのに対して、要約は他の言葉に置き換えることを指します。
要約で気をつけなければならないことは、「別の言葉に置き換えて説明する際に文献を書いた著者の意図から外れないようにする」ことだと本書は伝えています。
この注意は、監査人がKAM(監査上の主要な検討事項)を記載するときに、企業の開示を要約するときも同じ。監査人が要約することで、財務諸表の注記や記述情報で記載した内容の意図から外れてはいけません。
そのことについて、「財務報告の流儀Vol.016」で事例を挙げて説明していますので、ピンと来た方はご覧ください。