Accounting

帰ってきた、「シン・収益認識」

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

経理部長「大きな受注があったと聞きましたよ」

営業部長「耳が早いな~。そうなんだよ」

経理部長「かなりのボリュームですよね。生産、間に合います?」

営業部長「先方さんが大量生産に入るに備えて、専用のパーツを製造しておいて欲しいんだって。やるしかないでしょ、期待に応えないと」

経理部長「引渡しはいつの予定ですか。当期の着地にも反映させないと」

営業部長「当期は製造だけだから、売上は来期。先方の指示を待っての引渡し」

経理部長「そんなに沢山作って引渡しもなく、お金を支払ってもらえるのですか?」

営業部長「それは問題ない。契約上も、所定の数だけパーツを製造すれば、お金は払ってくれるようになっている。途中解約されても製造した分はお金がもらえる条項もあるし」

経理部長「それ、当期の売上かもしれませんよ」

営業部長「えっ、どういうこと???」

製造業に工事進行基準?

前回の投稿『本邦初公開、「シン・収益認識」』では、シン・収益認識の基準によると、売上の計上の仕方が2つに整理されたと説明しました。一時点か、それとも、一定の期間にわたってか、のいずれか。

一定期間にわたって売上を計上する方法は、これまで工事契約やソフトウェア開発で「工事進行基準」として適用されてきたもの。適用していた業種や取引は少なかったハズ。

ましてや、メーカーが、いわゆる工事進行基準が適用になるなんて、想像もしていません。冒頭の話が、まさにそれ。もちろん、フィクション。

ただ、EY新日本有限責任監査法人サンの『何が変わる? 収益認識の実務』の第1版で指摘されていた内容です。最初に聞いたときには、ハテナマークが500個くらい浮かびましたよ。

驚きつつも、そんな事態が起こりうるのが、シン・収益認識。なぜなら、業種を問わずに収益認識のルールを定めたため。要件に合うときには、メーカーでも工事進行基準のような会計処理になることもあるんです。

そのため、これまで一時点で売上計上していたものが、一定の期間にわたって売上計上することになるケースもあれば、その反対のケースもあります。従来とは違うタイミングや金額で売上が計上されると、会社の業績や将来予想、個人の評価や給料などに影響が及びます。

シン・収益認識の大事なポイント

シン・収益認識では、お客さんとの約束を果たしていくことで売上が計上されます。この約束は、必ずしも「契約」とは一致しません。そのため、契約と区別するために、「履行義務」と小難しく呼びます。

ちなみに、お客さんとの約束を果たしていくことを、「履行義務の充足」とより小難しく表現します。まあ、それは、さておき。

お客さんと約束を一時点で果たすものなら、そのタイミングで売上計上します。これに対して、一定の期間にわたって約束を果たしていくものなら、その果たし具合(進捗度)に応じて売上計上していきます。なので、お客さんとの約束が何なのかが、シン・収益認識の大事なポイントとなります。

いわゆる進行基準が適用される具体例

シン・収益認識の基準では、一定の期間にわたって売上を計上していくための要件が定められています。そのため、要件を満たさないなら、一時点でしか売上は計上できない構造となっています。

その要件は、シン・収益認識の会計基準の第38項に、3つ、挙げられています。具体例としては、次のものが該当しやすいです。

  • 日常的又は反復的なサービス(例えば、清掃サービス)
  • 工事契約
  • コンサルティング業務

とはいえ、個々の取引の条件や状況によっては、該当しないこともあります。取引だけをみるのではなく、どんな約束なのかに着目することが重要です。

何気に大きい、ルールが統一されたインパクト

シン・収益認識によって、業種を問わずに適用されるルールができました。その結果、これまで他の業種で行われていたような会計処理が適用になることもあれば、自社が属する業界の会計処理が他の業界でも適用されることもあります。

つまり、従来とは違うタイミングや違う金額で売上計上される場合があるのです。これが、シン・収益認識のインパクトに他なりません。

この「お客さんとの約束」は、どんな約束でも良いワケではありません。シン・収益認識が規定する「契約」がなければダメ。それについては、また別の話。

 

P.S.

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P.P.S.

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