今日は、2022年3月14日。それにしても、状況が刻一刻と変化していますね。そう、ロシアとウクライナの件。新しい状況が次から次へと生じるため、それに応じて企業のアクションも変わります。すると、会計上の論点も、数日前どころか、午前に検討した内容を午後に見直すような事態。
例えば、当初は、特定の事業に関する減損を検討していたところ、ルーブルが大きく下落したため、為替影響のほうに焦点が当たる。と思ったら、非友好国や地域への債務がルーブルで返済される法律が発効となったため、債権の回収可能性のほうが重要な論点に。そうこうすると、ロシアから撤退する外国企業の資産を接収するなんて話も出てくるものだから、もう、てんやわんや。
そんな影響は、海外の企業にも及んでいるような印象があります。12月決算の英国企業について、前期は2021年2月に監査法人の監査報告書が提出されていた企業の開示状況を調べている中でのこと。2022年2月中旬までの日付で監査報告書が提出されている企業では、ウェブサイトにアニュアルレポートが公表されています。それに対して、2月下旬以降となると、アニュアルレポートがまだ公表されていない企業もあるのです。タイミングとして、例の件と重なります。
また、2022年2月下旬以降の日付で監査報告書が提出されている企業では、財務諸表に後発事象としてロシアとウクライナの件を開示していたり、アニュアルレポート冒頭の社長による説明で、2022年12月期はこの件で減損が生じる可能性があることを伝えていたりと、影響が及んでいる様子がよくわかります。逆に、よく短期間にこうしてまとめられるなと感心するばかり。
ホラ、財務諸表以外の箇所についても、いわゆる「その他の記載内容」の手続があるじゃないですか。こんな刻一刻と状況が変わる中では、企業の開示も監査人の手続も打ち切るタイミングが難しくなりますよね。新型コロナウイルス感染症の感染拡大とはまた違った緊張感があるのではないでしょうか。
こんな状況であり、また、ボクもこの件に関する会計処理の検討に身を置いているため、会計上の論点を整理したうえで発表しようかと考えていました。というのも、まだ、そんな解説記事を見ることも、決算留意セミナーなどで説明されることもないから。
一方で、海外では、今回の件に関する会計上の論点が解説された資料がすでに公表されています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大のときよりも少ないものの、会計実務に役立つ資料がウェブ上にアップされています。そこで、誰でも閲覧できる資料から、次の2点を紹介します。
IFRS会計基準(2021年12月決算向け)
まずは、KPMGによる資料“Accounting implications of the war in Ukraine”。2022年3月10日付で、KPMGスイスのウェブサイトに掲載されています。IFRSのみならず、スイスの会計基準における取扱いも解説されているのが特徴的です。対象とされた財務諸表は、2021年12月期です。
PDFファイルで4ページと簡潔にまとめられています。この中で、後発事象については、一般的に、開示後発事象となるとの見解が根拠とともに示されています。また、開示の対象となるような状況や事象についても、8つの例が示されています。
また、継続企業の前提への影響にも言及があります。IFRS会計基準のもとで特定の開示が求められるシナリオが、2つ挙げられています。
米国基準(2021年12月期とそれ以降の決算を含む)
次も、KPMGが公表しているものです。その資料とは、“Hot Topic: Russia-Ukraine war”。2022年3月4日付で、KPMGアメリカのウェブサイトに掲載されています。そこで対象とされている財務諸表は、2021年12月期のみならず、それ以降の決算期についても含まれているため、2022年3月決算でも活用できます。
PDFファイルで11ページというボリュームからわかるように、影響が及ぶ論点が広範にカバーされています。具体的には、「後発事象」「リスクと不確実性」「異常な項目」「長期性資産、のれんおよび耐用年数が確定できない無形資産」「金融商品」「収益認識」「その他の潜在的な問題」のそれぞれについて、検討が加えられているのです。
米国基準の適用が想定されているものの、ここまで広範なため、日本基準でも論点のアタリをつけるには最高の資料ではないでしょうか。かなり参考になりましたよ。一番のオススメ。
日本企業が留意すべき事項
IFRS会計基準、米国基準と海外のものが続きました。それに対して、日本基準に基づく場合の影響や留意点については、ボクが調べたところ、まだ登場していません。もっとも、誌面の場合、原稿を早く書き上げたとしても、掲載されるまで一定の期間を要するため、物理的に厳しい面があるのも事実。
とはいえ、海外ではビッグ4と呼ばれる監査法人が、こうしてタイムリーな情報発信をウェブ上で行っているのです。日本でも、それを実行しない理由はありません。そこで、とりいそぎ、情報ソースの共有として、このブログ記事をアップした次第。
こうした海外の情報発信を踏まえると、日本基準の企業における決算期別の留意点は、ざっくりと、次のとおり。
- 2021年12月期の企業では、後発事象として対応するものと考えられます。また、今回の件の影響が大きい場合には、その状況や今後の対応などについて記述情報で説明することも適切でしょう。
- 2022年3月期の企業では、今回の件が期中に生じた事象のため、財務諸表に反映すべき論点が出てくると考えられます。ただし、期末日までには時間がまだあるため、さらなる状況の変化も見逃せません。もちろん、期末日を過ぎても、修正後発事象、開示後発事象ともに対応に迫られる可能性がある点にも注意が必要です。そうそう、見積開示会計基準に基づく注記も、前期とは異なる対応が必要になるかもしれません。
現時点をベースにした大所について、簡潔にお伝えしました。状況が変われば、別の対応が必要になることもありますので、ご注意を。そうではあるものの、少しでも光を照らせたなら嬉しいです。今後の動向にも注意しながら、一緒に決算を乗り切りましょう。