こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
いやいや、「KAMのフリーライダー」なる事例が登場していますね。この言葉は、ボクの造語。監査人が交代したときに、後任の監査人が前任の監査人が報告したKAMを盗用することを指すもの。つまりは、パクり。
2022年3月期は、KAM(監査上の主要な検討事項)の強制適用の2年目。どのKAMも、前年度のKAMと比較できるのです。ボクもそうした視点も含めて、分析を進めているところ。
その中で、監査人が交代した上場企業において、KAMの記載がどのように変化したのか、あるいは、変化していないのかについても着目しています。2022年6月24日までに提出された有価証券報告書を対象としても、すでに、29社の事例が出ているかと。
大前提として、KAMは年度ごとの相対的な重要性に応じて決定されるため、必ずしも前年度のKAMが当年度のKAMとなるものではありません。よって、同じKAMであるべきと論じたいわけではない。
とはいえ、交代案件以外も含めて、現時点までの事例を踏まえると、同じ内容が継続して報告されているものが多い。例えば、前年度に「のれんの評価」がKAMとされていた場合、当年度のKAMも「のれんの評価」が取り上げられているのです。
そこで、監査人が交代した場合に、当年度も同じ内容のKAMが継続して報告されているときには、記載の相違を比較することができます。半数近くは、同じ内容のKAMを取り上げながらも、その記載には後任の監査人の視点が色濃く反映されています。
それに対して、明らかに前任のKAMを踏襲して、当年度のKAMを報告している事例があります。もちろん、企業の開示に基づきKAMの内容を記載する箇所や、実施する対応手続を記載する箇所では、報告の仕方によっては、ある程度は似てしまう場合もあるかもしれません。
しかし、度を超えて似ているKAMもあるのです。前任の監査人が報告したKAMと酷似している。中には、金額しか違う点がないKAMもあるほど。KAMに著作権があるのかどうかはわかりませんが、もし著作権があるとしたら、訴えられるレベル。
そもそも、KAMとは、監査の透明化を目的としたものです。監査人がどう考えたために何に着目したか、また、それにどう対応したかを書くものです。監査人が変われば、視点も変わることもあり、また、視点が変われば対応手続も当然に変わる。
同じファームで担当が交代したレベルでもKAMの記載は変わりうるのに、ファームレベルで交代したなら、視点も変わって然るべき。だからこそ、ファームローテーションという話題もあるワケで。
このようなKAMを報告する監査人や監査法人、さらに、そのような監査人の監査を受けている企業は、一体、どのような評価を受けるのか。投資家やアナリストの声を、ぜひ、聞きたいところ。
そうそう、2022年3月期以降を対象としたJICPAの品質管理レビューや金融庁検査がどこまで踏み込むのかについても、期待とともに注目したいですね。KAMは、監査の信頼回復のために導入された制度ですから。
P.S.
KAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。